ママの手料理 Ⅲ

「ごめ、…大也、」


「撃たれてるから話さないで!…ねえ、何で血が止まらないの!?」


仁が掠れた声で俺の名前を呼んだけれど、正直その時の俺は気が動転していて良い返事をする余裕もなくて。


止血するものなんて何も持っていなくて、慌てて自分の着ていたジャケットを脱いで傷口に押し当てる。


仁の顔は既に顔面蒼白で、一刻を争う状態なのは一目で理解出来た。


(どうしよう、どうしたらいい?俺は今何をしたらいい!?)



仁は自分が大嫌いな奴で、今までに何百回も本気で死んでくれと思った相手だ。


それなのに、そのはずなのに。


「大丈夫だから…!」



彼が生きる事を心から望んでいる自分がいるのは、何故なのだろう。



多量出血のせいで仁は浅い呼吸を繰り返していて、たまにヒューヒューという聞きたくもない嫌な音が混ざっている。


「死なないで、お願いだから…、」


ジャケットで患部をきつく抑えているというのに、全く血が止まる気配はない。


ああ駄目だ、涙が出てきて視界がぼやける。



仁の顔も身体の輪郭も、全てがぼやけて何も分からないよ。



「大也、……ごめ、んね…」


その時、辛そうな呼吸を繰り返していた仁が口を開いた。


「…喋らないで。傷口がもっと、…開くからっ、」