ママの手料理 Ⅲ

「は?紫苑ちゃん?」


困惑し過ぎて声が裏返る。


「うん、紫苑ちゃん。だから、僕の気が変わらないうちに言うね」


全く、俺の居ない間で2人は何を話したんだ。


こんな事になるなら、無理を言ってでも紫苑ちゃんを仁と違う部屋にさせるべきだった。


何処か勿体ぶった含みを持たせる仁を、俺はありったけの力を込めて睨み付けた。


「超絶どうでもいいけど、早く言って早く壱になって貰える?こっちは45階目指してるからさぁ」


俺がどんなにつっけんどんな態度を取ろうとも、最年長mirageはノーダメージでへらへらと笑っている。


「はいはい。………実はね、僕、」


しかし、真面目な声で何かを言いかけた仁は、急に不自然な所で言葉を切った。


(…?)


「何?」


丁度他の方向を向いていた俺は、違和感を覚えて仁の方を向いた。


それと同じタイミングで、彼の喉がヒュッと鳴る。



「ぁ、」


声にならない声を絞り出した彼は、目を見開いて俺の方を凝視していた。


「え?ちょっと?」


その怖がり方は、まるで心霊スポットで幽霊を見た時のそれだ。


何が何だか分からない俺は、ぎこちない笑顔を作って彼の方へ近づく。


「…あ、あれ、」


俺の顔を見る余裕もないのか、彼は今にも倒れそうな程に顔を真っ青にしながらゆっくりとこちらを指差した。