ママの手料理 Ⅲ

「よし、それでこそ俺の弟だ」


意味の分からない台詞を口走った彼は、おっと、と手で口を押さえ。


「じゃ、また3分後な」


汗と血で濡れた茶髪をかきあげ、ゆっくりと目を瞑った。



それから1分も経っていないだろうか。


敵の姿が見えなくなり、床に座り込んで残りのチョコレートをかじっていた俺の耳に、


「…あれ、此処フェニックスのアジト?随分荒らしたんだね、汚いなあ」


刺々しくて皮肉めいた、奴の声が聞こえてきた。


(うーわ…)


自分の背後に仁が立っていると考えるだけでも嫌過ぎて、この場から去りたくなる。


「ねえ、何で人格交代したいなんて言ったの?どう考えても足手まといなんだけど」


壱に言われた通り、先程自分が酷い事を言った件については口を滑らせないように気を付けているものの、代わりに冷たく接してしまう。


「何何、そんなに僕が出てきたのが嫌なの?まあ、たまにはメンバーの活躍を見てみたいと思ってね」


仁がしゃがんだせいで空気が揺らめき、そのまま彼はチョコレートを噛み砕いている俺の顔を覗き込んできた。



仁と壱は同じ顔なのに、その目つきは別物だ。


仁の目はいつも目尻が下がっていて、それでいて人の心の奥底まで見透かしそうな程の綺麗な瞳をしている。