ママの手料理 Ⅲ

「…おっと、」


いきなりナイフが飛び出てきた事よりも、敵が日本語を操れる事に対して目を見張った琥珀は、次の瞬間。


「お前こそ動くな、殺すぞ」


ナイフの刃先に反射して浮かび上がる歪んだ男の目を見つめ、口元に黒い笑みを浮かべた。


「あぁ?」


「…お前、俺の事」


ドスの効いた声で尋ねてくる相手を目だけ上にあげて捉えた琥珀は、赤子も黙る程の低い声を出す。





「舐めてんじゃねえよ」





目の前に差しだされたナイフを左手で掴み、勢い良く力を入れる。


『えっ琥珀!?何今の台詞!かっこいいんだけどもう1回言って!』


運悪く自分の声が大也の元に届いてしまったらしく、イヤホンから聞こえてくるのは現役ホストの嬉しそうな甲高い声。


「うるせぇ黙れお前」


集中が途切れないように短く息を吐いた琥珀は、鋭く尖ったナイフを簡単に折り曲げた。


素手のせいで左手からは若干血が滴り落ちているけれど、これは擦り傷と同類である。


げっ!?、とか何とかほざいている男の顔をまっすぐ見た琥珀は、フンッと鼻で笑って。


「もう怖気付いたか、そんなんでよく怪盗名乗れるな」


両足と左腕をフルに使い、瞬く間に戦闘モードへ突入した。


「とっとと死んでくれねぇかな、邪魔なんだわ」