ママの手料理 Ⅲ

宙を舞ったそれを難なく掴んだサイコパスは、威嚇するかのようにスタンガンの電源を入れながらロボットのような笑みを浮かべた。


「ああ。…何かあったら、昨日言った事を思い出せ」


「……もちろんです、勝つ為ですから」


その後、2人は私にはよく分からない内容を二言三言言い合った後にハイタッチをしていた。



「おい湊、闘いの場に要らない情を持ち出すなよ」


「えっ?」


誰よりも早くシートベルトを外した壱さんが、助手席の方に身を乗り出して湊さんに話し掛ける。


その様子を、ドローン操縦係に任命された私はぼんやりと見つめていた。


とぼけた顔をしながら振り返ったリーダーの目の前に顔を近づけた壱さんは、


「…お前の家族は俺達だ、そうだろ?」


地面がひび割れるのかと思ってしまう程の低音ボイスで囁いた。


それは確かに小声だったのに、龍のようにうねるその言葉は何の抵抗もなく私の鼓膜へ侵入していく。


(…?)


彼がどうして分かりきっている事を言ったのか分からず、私は首を傾げる。


リーダーも同じ事を思ったのか、一瞬素っ頓狂な顔をして。


「…分かってるよ」


次の瞬間、花が咲いた様にふわりと笑った。