香音人とは婚約者という立場であったが、キスはしたことがなかった。初めて触れた唇はどこか気持ち悪く美桜は感じ、自身の舌と絡まろうとする香音人の舌を噛んでしまう。

「ッ!」

香音人は目を見開き、唇はようやく離れた。二人の間に糸が生まれ、切れていく。荒くなった呼吸を整えている美桜に、血の滲んだ舌で首筋を香音人は舐めた。

「やめてください!」

美桜は香音人を押し退けようとするものの、その手を強く掴まれて拘束されてしまう。

「嫌だな、僕たち婚約者じゃないか。ああでもーーーもう夫婦になるね」

もう一度唇が触れる。そして、美桜は香音人の手によってベッドのシーツの海へと沈められていく。

それは、自由になれたと思った小鳥が捕らえられ、再び檻の中に戻された瞬間であった。



あれからどれだけの時間が経ったのか、ボウッとして過ごす美桜にはわからない。

パーティーの次の日、美桜は大学をやめさせられて香音人と結婚させられた。そして、彼が用意した高層マンションの最上階の部屋で足枷をつけられ、監禁されている。

(もっと早く逃げれていれば、こんなことにはならなかったの?)

後悔をしてももう遅い。鎖は頑丈で、部屋のドアは香音人しか開閉ができないようになっている。

「美桜、愛してるよ。最初からこうしておけばよかった。ずっとここで一緒にいようね」

いつの間にか美桜を香音人が抱き締め、キスを落とす。

鳥籠の扉は、もう永遠に開くことはない。