美桜が篤人の無邪気な笑顔を思い浮かべると、先ほどまで悩んでいたことが嘘のように、二人で行きたいところ、食べたいもの、見たいものなどが溢れてくる。

二人でオーロラや白夜を見たい、本場のディズニーランドやユニバーサルスタジオを楽しみたい、美しいビーチでのんびり過ごしたい、ピザやジェラートを食べたい、おとぎ話に登場するような街並みを見たい、国内なら温泉や新鮮な海鮮料理を楽しみたい。想像するだけで顔が赤く染まっていき、胸が高鳴っていく。美桜はその時、やっとこの不可思議な感情の名を知った。

「美桜?」

「行きたいところが多すぎて、悩みますね」

心配そうに訊ねる香音人に対し、美桜はまた嘘をつく。香音人が嬉しそうに話す言葉に適当に頷き、美桜は「お花を摘んできますね」と言って席を立つ。

トイレの個室に入った後、美桜は「ハァ……」と大きくため息をつく。心臓の音がうるさい。真っ赤な顔をしながら美桜はトイレの壁にもたれ、項垂れる。それは、幸せだが認めたくない感情だった。

「私、小花井くんに恋をしてるのね……」

美桜には香音人という婚約者がいる。だが、一度自覚してしまった想いはもう止めることなどできない。