「本当?約束だからね?」

どこか拗ねたような目でジッと美桜を見る香音人に、高級ブランドのワンピースを着た女性たちの熱い視線が注がれる。世間一般で言うイケメンで、お金持ちで、優しく、女性の扱いに慣れていて、婚約者を溺愛していて、次期社長。そんな人が婚約者など、誰もが羨んでしまうだろう。

「新婚旅行はどこへ行きたい?僕は美桜と行くのならどこにでも行くよ。あっ、だけど綺麗なビーチと暑い国はなしね。美桜の水着姿を見ていいのは僕だけだし、薄着なんて美桜がしたらみんなの視線が集まっちゃう。そんなの、僕、嫉妬どころじゃ済まないから」

婚約者である美桜は顔を引き攣らせ、周りで食事をする女性たちが頬を赤く染める。この重すぎるこの愛は、婚約者でない彼女たちには可愛らしい束縛に見えるのだろう。

「行きたいところ、ですか……」

美桜は考えるも、香音人と二人並んで見たいものなどは思いつかない。そもそも、国内ですら二人で旅行したことすらないのだ。

(もし、小花井くんと行くなら……)