「とても、おいしいです……!」

美桜が頬に手を当てて微笑むと、篤人の頬がほんのりと赤く染まる。だが、美桜は初めて駄菓子を食べたことに意識は傾いていたため、それに気付くことはなかった。

「ねえ、よかったらお昼一緒に食べに行かない?君を見てると何だか面白い」

篤人にそう言われ、美桜の心が揺れていく。異性と関わったと知られれば、香音人から何を言われるか想像するだけで恐ろしい。だが、篤人の見ている世界を知りたいという気持ちもある。

「行きたいけど、婚約者や家族に見つかったら……」

「それなら、いい方法があるよ!」

俯きがちに言った美桜に、篤人は無邪気な笑顔を見せた。



午前の講義が終わると、学生たちは大学内にある食堂へ向かったり、お弁当やコンビニで買ってきたものをかばんから出したり、外へ食べに行ったりと思い思いに過ごす。

美桜は篤人に手を引かれ、空き教室へと連れて行かれる。香音人のものとは違うマメのできた手に美桜は手に触れられた瞬間、驚いてしまった。

「痛くないんですか?大丈夫ですか?」

篤人は一瞬キョトンとした顔をしたものの、美桜が手をジッと見ていると、「ああ」と納得したように頷く。