いずれこうなるとはわかっていたはずなのだが、本当に自分の好きな相手を見つけることはできないのだと美桜は悲しくなってしまう。ドラマや少女漫画で描かれる「恋」という感情を、まだ美桜は何一つ知らない。知らないまま、目の前に座っている香音人と結婚させられるのだ。

美桜は、色とりどりで豪華な懐石料理もまともに口にすることができず、互いの両親が「じゃあ後は二人で」と部屋を出て行っても、口を開くことができない。そんな美桜に、香音人はゆっくりと近付く。その顔は、どこか困っているように見えた。

「ごめんね、突然こんなことを言われたら驚くよね。そうだ!気分転換に散歩にでも行かない?ここ、庭園もすごく綺麗なんだよ」

せっかく誘ってくれたのに断るのは失礼だと美桜は思い、無言のまま小さく頷く。香音人は「よかった」と微笑みながら呟き、美桜に手を差し出す。

「振袖だと、少し歩きにくいでしょ?」

異性とは手を繋ぐどころか、体が触れたことすらない。美桜が躊躇していると、香音人の方から手を取られてしまう。女性の手よりも硬く、そして大きな手に、美桜は驚いてしまう。

「行こうか」

「……はい」