桜が咲く前に




鳴り続ける忙しい心臓に「落ち着きがない!」なんて心の中でさっきの千紘先輩みたいに怒ってみた。




当然、静まることはないのだけれど。




…ううん。そんなこと気にしていられない。




「先輩!…私、千紘先輩に言いたいことがあるんです」




一か八か、心は置いてけぼりにして声だけでも届けようと思った。




三歩前を歩いていた先輩が振り返ると、ブラウンみのある瞳が私を捕らえて、決して逸らそうとはしない。




心臓がおかしくなる前に、口を開こうとしたその時。




ど、と鈍い音がしたのは、私がコンクリートの地面の上で転んだから。




私の告白を邪魔したのは、大きな石だった。




「いうう、痛…」



「はあ…なに、寝てたの?何百回ここ通ってんの」




呆れ顔のまま今日二度目のため息をつく。




千紘先輩が着けているグレーのマフラーが目の前でひらひら揺れた。





カシャ。




「…なにしてるんですか」



「可愛くて」