彼の話を聞いているうちにすっかり眠っていた。
彼の話がつまらないとかではなく、彼の言葉からどれほど私が大切に思われているかがわかったから、もうあの彼女のことはどうでも良くなってしまった。
ぐっすりと眠る昌希さんを残して階段を降りる。

寝室を覗くと思った以上に荒らされているのが分かる。
窓ガラスは割れて倒れたサイドテーブルの上に置かれていたものが散乱している。
壁にもいくつか傷が見えるが、これに関しては今回のものかはわからない。
ふと、今立っている位置が昨日の場所だと気付くと髪を振り乱した彼女の姿を思い出し体がブルっと震えた。


ご飯を炊いていないので、コーンスープと、ホットケーキ、目玉焼き、ウィンナー、野菜サラダをワンプレートにした。

テーブルが彩った時、2階から昌希さんが降りてきた。

「彩春、大丈夫か?」

「平気、でも部屋が凄いことになってる」

昌希さんは一度私を抱きしめると、昨日叩かれた頬を撫でた。
「彩春、どうして家から出なかったんだ」

少し怒った表情に体が強張る。

「この家を壊されたくなくて」

「彩春がこの家を大切に思ってくれるのは嬉しい、だけど俺は彩春に何かあったら自分を一生許せなくなる。俺にとっては彩春が1番大切なんだ。もうこんなことはないと思うけど、何かあった時は、自分自身を1番に考えてくれ」

「でも、私だって大切なのは」
話の途中で両頬を手で挟まれ、頭におでこがあたっている。

「彩春」
有無を言わせない口調で名前を呼ばれて「はい」と答えるときつく抱きしめられた。

テーブルの上を見た昌希さんは「美味そうだな」と言って微笑んだから、「うん、美味しいよ」と答えた。