彼がデキ婚するので家出をしたらイケメン上司に拾われました。

食事を彩春が作ってくれるようになり、基本は彩春に任せているがリクエストがあればラインで伝えてほしいと言われ麻婆豆腐をリクエストした。

[了承しました]という返事を昼にもらったが、昼食から帰ってきた彩春の様子がおかしい。
見ていられなくなり第三ミーティングルームに誘って話を聞くと、昼に行った定食屋で元婚約者に会い今夜、妹のお腹の子について話を聞くと言うことだった。
不安そうな彩春を一人で行かせられない、あとから合流すると伝えると、ホッとしたように見えた。

仕事を終えて駆けつけるとコーヒースタンドの窓の外から彩春の手を向いに座る男性が掴んでいるのが見え、こめかみから頭上に熱いものが昇っていった。
急いで店内に入ると真っ直ぐに彩春の元に行き
「彩春、待たせたね」と言って、肩を抱きながら彩春の前に置かれていたカップを持つと、目の前に座っていた男性が、不意打ちに驚いたのか、掴んでいた手を離した。

「あ、あなた誰ですか!今、彩春はオレと話をしているんです。邪魔しないでください」

彩春は今、必死に辛い思いを忘れようとしているのにそれを邪魔しているのはお前だろうと叱りつけたい気持ちはあったが、グッと抑える。

「彩春、まだ話があるのか?」

「いいえ、もう話をする事も聞くこともないです」

元婚約者は絶望的な表情をしていたが、そもそも自業自得だし手を掴まれた彩春が怯えていることに気がつかないヤツがそもそも彩春と一緒にいていいはずがない。

「そう、じゃあ俺たちの家に帰ろうか」
もうお前が触っていい女性(ひと)ではないことを思い知らせるために俺たちの家というところを強調した。

彩春から聞いた妹たちの行動はあの元婚約者が気の毒に思えるほど非情で極悪なものだった。
だが、元婚約者は優先するべき事、人の順番を間違えた。上司や取引先の飲み会ではない、彩春が大切なら断ることのできた合コンだった。そしてその結果も、決断を決める前に誠意を見せる相手は彩春だった。
オレにとっては行幸だが、彩春の心に深い傷をつけたことを考えればこの結果は仕方のないことなのかもしれない。

二人でインスタントラーメンを食べて少し話をしてから彩春はお風呂に行った。
元婚約者の話が本当なら、妹との話し合いは必要だろう。彩春の気持ちを考えると複雑な気持ちになる。

そんなことを考えているとスマホが着信を知らせるために震えていた。