彼がデキ婚するので家出をしたらイケメン上司に拾われました。

開け放されたドアの先にいく前に電気をつける。
入った先の茶の間には誰もいなかった。手に持ったスマホから昌希さんの声が聞こえてきた。

『彩春どうかした』

「今、家の中に強いウェーブのロン毛の女性が入っていきました」

『彩春、とりあえず家から出て。俺は警察に連絡するから一旦通話を切るけど、すぐに電話を掛けるから』

通話が切れて言われた通りに家を出ようとした時、ガシャーンと何かが壊れる音がした。
茶の間を抜けてキッチンの電気をつける。

ここにもいない。

さらに奥を見ると昌希のプライベートルーム、すなわちベッドルームのドアが開いていて、物が壊れる音が響く。
ダメだと思っていたのに、大切なこの家を壊されるのじゃないかとその方が怖くて咄嗟に部屋に入ると赤茶色の髪を振り乱し、その髪は顔に張り付いている。部屋の中を見るとサイドテーブルが倒れ、朝出かける時に整えたベッドも布団が剥がされ乱雑に床に放置されていた。

手に持ったスマホが震える。
視線は目の前で私を睨みつけている赤茶色の髪の女から離すことはできないから、昌希であることを祈りながら通話ボタンに触れた。

「ねえ、あなたは誰ですか?不法侵入した上に室内を荒らして」
声が震える。
怖い。


「昨日の夜の相手はあなた?」

あの日見た時はキッチリと化粧をしていて見習わなくちゃと思ったその人は、今は髪を振り乱し化粧も流れて目元は黒く滲み、ルージュも唇のはしに流れていた。

「ここは私の家でもあります。まずは私の質問に答えてください」

女は少しづつ近づいてくる。私は距離を保ちつつ後退るが、足が震えて上手く動けない。少しでも気を抜くと崩れ落ちそうになる。

「あなた、もういらないからこの家から出て行って」

何で?
話が通じない。
逃げた方がいい。

なんとか走れば玄関に出られる。
そう思ったとき、頬に衝撃が走った、その反動で体がふらつく。

「この泥棒猫!昌希を返しなさいよ」

『彩春』
「彩春」

頬を叩かれたときに咄嗟にスマホを持つ手で頬を押さえたときにスマホから聞こえた声がステレオで聞こえてきた。