「朱夏どうしたの?」

中庭のベンチでぼんやりと座っていたら晴子が声をかけてくれた。
相手は明かせないが妊娠してしまって堕ろすための費用をどうしたらいいのか悩んでいると話した。

「親に相談できないの?」

「うん、お母さんにもお姉ちゃんにも言えないし、そんなお金どうしたらいいか」

「だったらいいこと考えたんだけど」

「え?」

「ただ、知らない男と一回ヤルことになってもいい?」

堕ろさないと先生に会えないし、そのために一回くらいならかまわない。

「うん、大丈夫」

「オッケー、じゃあワタシに任せなさい」


晴子の計画は、晴子の彼に合コンを企画してもらい、そこでターゲットを酔わせて一晩ヤッたらそのせいで妊娠したからと手術代を出してもらうというものだった。

そんなにうまく行くとは思わなかったが、堕ろさないと先生に会えないと思うとどんな計画でも試してみたくなった。
そして、当日、社内でも気の弱い人だから大丈夫だと言われて酔わせてからホテルに連れて行ったが、泥酔している人では勃せることができなくて千佳からもらった偽物の精子をかけたりして偽装した。
妊娠結果がわかるようになる日数をまっている間、先生に会いたいというよりも、この子を本当に堕ろしていいのか考えるようになった。

ネットで調べている時に
[この子は私を選んできてくれた]
という文字を見つけたときに、この子を堕ろすことは私を選んできてくれた命を殺すことになるんだと気がついて怖くなった。

あの日の男性は細谷悠也さんという人で、改めて会うととても優しそうな人で、私を妊娠させてしまったことにすごく辛そうにしていた。
堕胎費用のことを伝えた翌日、「結婚しましょう」と言ってくれた。

この子を産むことができる。
堕ろすべきか、一人で産むかどちらも怖かった。だけど、このひとの子供だと思って過ごせば安心して産む事ができる。
もしかしたら、その頃には先生も離婚が成立しているかもしれない。
私は「はい」と答えた。