テーブルの上には、カセットコンロにすき焼き鍋がのせてある。

「なるほどな、すき焼き鍋でお好み焼きを作るという考えはなかったかな」

小麦粉に卵に長芋パウダー揚げ玉にキャベツをたっぷり入れた生地を油を引いたすき焼き鍋に流し込むと生地の上に豚肉をのせてから蓋をする。

「家にはホットプレートが無かったから、フライパンとかすき焼き鍋で作るのが普通なんです」

「お好み焼きを家で食べたことはないし、外食でもほとんど食べることがないな」

「え、もしかして嫌いでした?」

「そんなことは無いよ、単に今まで食べるチャンスが無かったんだ」

「そうなんだ。キャベツの安い季節なんかお好み焼きにするとお腹がいっぱいになるのよね」

話をしながらヒョイとお好み焼きをひっくり返すと諏訪さんは「おー」と声をだして感心してくれた。


お好み焼きをビールを飲みながら二人で食べたあとお風呂に入り茶の間で座椅子に座る諏訪さんの膝の上に座っている。
せっかく買ってもらった私用の座椅子はあるじを失い寂しそうに置いてある。
テレビではバラエティ番組が流れているが、まったく頭に入ってこない。

「あの、諏訪さん?重くないですか?」

「ぜんぜん、というか彩春って呼んでいい?」

「はい」

「じゃあ、俺のことは昌希で」

「はい」

「じゃあ、呼んでみて」

「昌希さん?」

「なんで疑問形?」

「昌希さん!」

「よくできました」と言って背後からのキス。

甘い!
あまーーーい!

「さて、そろそろ寝ようか、お休み」

そう言うと、おでこにキスを落としてからにこやかに茶の間を出ていった。

えええええ!
イヤだ!私だけが変な想像してたってこと。
恥ずかしい。

期待していたと思われたら恥ずかしいから、何事もなかったようにテレビを消して茶の間を出ようとしたら

「そんなわけないだろ」
出ていったと思った昌希さんが扉のところで微笑んでいた。