玄関扉を開けてくれた女性は上品な顔立ちだが少し疲れているよう見えた。
そして、息を呑んでしまったのは奥様は妊娠中だった。

どうしよう、まさか妊娠中だなんて思わなかった。こんな話をして気を煩わせてはいけない。

「子供がいるので散らかってますが、どうそ」

「あの」

「座って話をした方がよいので」

「はい」

リビングの窓際にはマットが敷かれていておもちゃがいくつか散らばっていたがそれには見向きもせず男の子が模造紙のような大きな紙に何かを描いていた。

「太郎、お客様よ。挨拶は」

そう言われると太郎くんはその場に立ち上がり「こんにちわ」と言いながらお辞儀をした。

「こんにちは、なにを描いてるの?」

「みいたん」

みいたんと言われるものをみるとなんとなく四足歩行っぽいモノが描かれていてきっと猫だろう、犬かな?

「上手だね」と言うと太郎くんはニッコリと笑ってからお絵描きを再開した。

賢そう。
綺麗な奥さんに可愛い子供、そして奥さんのお腹には新しい命があるのに、浮気をする夫。
やっぱり、言えない。
お世話になってると言ってお菓子だけ渡して帰ろう。

「相馬さん?どうぞお掛けになって」
気がつくと奥様はテーブルにお茶を用意してすでにソファに座っていた。
手に持っていた菓子折りを渡すと、ありがとうございますと言って受け取ってくれた。

「生徒さんのお姉さんがどうして?」

「その・・・」

どうしよう、いつもお世話になっているので挨拶にきましたって言う?いや、姉が言う事じゃないよね?
次の言葉が出ないでいると

「夫が妹さんと不倫でもしてますか?」