「悠也を騙して堕胎費用を取ろうとしたことは事実?」

驚く母の隣で大声で泣き出す朱夏にさらに問い詰める。

「しかも不倫しているって本当?本当の父親の名前は?」

「不倫?朱夏、あんた」
母は口を開いたまま固まってしまった。

「最初は堕胎費用を出してもらえればいいと思ってた。だけど、本当は迷ってたの。そんな時、細矢さんが結婚してくれるって。そうすればこの子を産めるって思ったの。堕ろすのも一人で産むのも怖かった時に言われたら。細矢さんがあんなに優しくていい人じゃなかったらつけ込んだりしなかったのに」
「お金だけ払って放っておいてくれれば、お姉ちゃんに迷惑をかける事はなかったのに」

悠也はそういう人、とても優しい。
でも、優しさのベクトルが方向を変えると残酷になる。
悠也は優しさを向ける方向を私ではなく、妹に方向転換したのだ。
そうか、私は悠也が裏切っていないと分かった後も許せなかったのは、一年以上一緒にいた私でなく、たった一夜の朱夏を選んだ、それがずっと引っかかったんだ。


「朱夏が詐欺を行なおうとしたことには変わりないでしょ。自分のした事を償うならどうしてこんな状況になったのかキチンと説明をして。私はそれを知る権利が有るし、あんたには説明をする義務があると思う」
「私と悠也の未来を奪ったんだから」

最後の一言で朱夏は大声で泣き始めた。

「いい加減にして、泣きたいのは私なの、間違ってもあんたじゃない」
低くそして通る声ではっきりと朱夏に言い放った。