翌日、出勤すると管がニヤつきながら近づいてきて耳元で「あやちゃんと結婚するんだって」と囁いた。
その言葉を聞いたときに勝手に体が動いていた。
管に馬乗りなるとめちゃくちゃに顔を殴り続けた。
今まで、誰にも逆らうことがなかったオレの暴力に咄嗟に対応できなかったのか岸はやられるがままだった。

「オレは、結婚する予定だったんだ。お前らの計画をあのビッチ女に聞いたよ」

右手に力が入らなくなっていて管に腕を掴まれたが、岸は黙ってオレを見ていた。

「結婚?」

「婚約してたんだよ、マテリアルの相馬さん」

周りがガヤガヤしている。きっと、野次馬が集まってきてるのかもしれない。
そんなことはもうどうでもいい。

「婚約指輪も渡して妹さんが大学を卒業したら結婚することになってた」

「お前らのせいで」

掴んでいた岸の手が緩んだところで手を振り上げたがそれを振り下ろすことができなかった。
オレの手を総務の市川さんが掴んでいた。

「細矢さん、どうしたの。てか、腕が変よ骨折してるかも。てか、岸くんがどうかしたの」

管は顔を腫らせながら気まずそうにしている。

「オレには婚約者がいたんですけどね、管の彼女の友達が不倫相手の子供を妊娠したからオレをハメてそのビッチの堕胎費用をオレに出させようとしたんですよ。しかも、わらっちゃうのがビッチの姉がオレの婚約者だったんだ」


えっ

管がオレの下敷きになりながら驚きの声を発していた。

「管くんの彼女?」
市川さんも混乱している。

「ええ、てっきり菅は市川さんと付き合っていたのかと思ったけど、女子大生と付き合ってるんですよ」

市川さんはオレを管の上から立ち上がらせると岸の腕をとるとその場に座らせた。

管は「違うんだ、ちょっとした知り合いで合コンメンバーを揃えただけというか」と市川さんに説明を始める。

「ビッチの話だと、三ヶ月前から管とハルコちゃんは付き合っていて、スピリタスを飲まされて泥酔したオレをホテルまで運んでくれたそうだよな、その後は隣の部屋でハルコちゃんとたのしんでたって。オレを地獄に落としておいて」

市川さんはパンプスの片方脱ぐとそれで管の頬を叩くと口の中から白いものが飛んでいった。

「最低」

市川さんがパンプスを履いたところで、騒ぎを聞きつけた上司が駆けつけてきたが、どう見ても普通ではない状況でも市川さんの言葉でその場は収まってしまった。

「管くんが顔面から転びそうになったところを細谷さんが抱き止めようとしたら、掴みどころが悪く細矢さんの手首が負傷して管くんは床に顔面を打ち付けました。ですよね管くん?」

その言葉に管は頷いていた。
野次馬の中にいた栗田と目があったがずっと両掌を合わせていた。
手首のあまりの痛さに病院へ行くと骨折していたため、3日ほど有給をとった。
彩春に会うためお昼に定食に行き、ようやく話ができることになった。
不倫をして、他人の幸せを奪うようなビッチのせいで失った彩春を取り返せると思った。

それなのに、彩春は男のオレから見てもかっこいい男と共に去っていってしまった。
オレのするべき行動が決まった。