「細矢、明日の夜空いてるだろ」

同期の菅は話もうまくて見た目もいい、いわゆるイケメンの部類になるがすこしチャラいところがあり、いつもオレを見下しているところがあった。

「いや・・・」

「明日、女子大生と合コンするんだけど、細矢は参加ね」

「合コンなんて行かないよ」

「いやいや、女子大生と付き合えるチャンスだぜ」

「女子大生と付き合いたいと思わないし、それ以前に管って経理の市村さんと付き合ってるんだろ」

「知り合いの子の友達が社会人の彼氏を募集しているって相談されての合コンだから問題ないんだよ」

「だったら、オレじゃなくてふさわしい男がいるだろ、とにかくオレはパスだから」

いつまでも話をしていても同じ話の繰り返しになりそうだったから、そのまま営業に出た。

それで、終わりだと思っていたのに、
翌日、菅と同僚の栗田に引きずられるように個室の居酒屋に連れて行かれた。
もともと酒に弱いオレは飲まないようにしていたのに、なぜが酔いが回るのが早かった。
菅は知り合いだと言っていた子をハルコと呼んでいていやに親しい感じを受けたし、栗田も一人の女の子と二人だけの世界に入っていた。
結局、興味が無くて名前も覚えていない女の子と話していたが途中から記憶がなくなっていた。


そして、目が覚めると
知らない部屋のベッドの上に裸の女の子と一緒に眠っていた。
夢の中で彩春を抱いていたような気がする。
でも、気がつくと隣に寝ているのは昨夜合コンに来ていた子で自分も裸だ。
絶望的なのは自分のアンダーヘアは粘着質なものがこびりついてゴワゴワしていた。
オレは急いで着衣をつけるとホテル代をテーブルの上に置き寝ている女の子を置いて帰宅した。
翌日、菅や栗谷に色々と聞かれたが何もないと言い、あれは一夜の過ちで彼女の事はもう忘れてしまえばいいと思た。

彩春にプロポーズするために頼んでいた彼女の誕生石であるアクアマリンのプラチナリングが出来上がったと連絡がきた。
あの過ちに蓋をして彩春にプロポーズをすると、妹が大学を卒業を待って結婚することになった。家族に挨拶に行く予定を考えていた時、菅がこの間、合コンに来ていたあやちゃんがオレに会いたがっていると言われ断ったが、重要な話があると言われ断ることが出来ずファミレスで二人で会った。

「生理がこないの、あの時着けてくれなかったよね」

ゴムをつけたかどうかなんて、まったく記憶がなかった。
ただ、状況からオレが射精した可能性は高かった。

「検査はしたの」

「まだして無いです。一人では怖くて、一緒に見てもらっていいですか?」

「そうだね、はっきりさせよう」

そう言ってオレの部屋に入れるわけにもいかず、あやちゃんと呼ばれていた子は家族と住んでいるということでドラッグストアで検査薬を購入するとラブホテルに入ってそこで検査薬を使ってもらった。
トイレから出てきたあやちゃんの手には線がくっきりと出た検査薬があった。

目の前が真っ暗だった。

彩春が嬉しそうに贈った指輪をはめている姿が脳裏に映った。
言葉が出なかった。
黙りこくったオレにあやちゃんが

「あの、堕す為のお金と付き添いをお願いしてもいいですか」

と、聞いてきた。
1度の間違いだとしても、間違いを犯したのは自分だ。それなのに、何もなかったかのように知らん顔をするつもりだった。

「少し考えさせてほしい」

そう言って連絡先の交換をしてホテルを出た。
現実の重さを感じながら気がつくと自分の部屋にいた。毎晩楽しみにしている彩春とのラインもスタンプ1つも苦しくなった。

「堕胎・・・そんなことをさせていいのだろうか」

翌日、あやちゃんに「結婚しましょう」と伝えると少しの間の後「はい」という返事が返ってきた。
彩春に正直に伝えて謝罪をした。
彼女の両親は父親の不倫で離婚をしていた。そんなつもりはなかったが、結果的にオレも同じようになってしまった。

彩春を愛している。
好きで好きで、ずっと好きだった人を諦めた。
妊娠しているから、急いで話を進めるためにあやちゃんの自宅に挨拶に行くことにした。
教えてもらった住所には築古のアパートがあり部屋の前に行くとプレートには苗字だけが書かれていた。
そういえば、結婚すると決めたのにあやちゃんという名前しか知らない事に気がついた。

相馬

彩春と同じ苗字だ。
チャイムを鳴らすとドアが開いた


「何しに来たの」