彩春は彼女が勤めているマテリアル株式会社の事務機器リースの保守点検に行っていてオレが一方的に知っていた。
スタイルも良くて美人で仕事も出来て、きっと素敵な彼がいるんだろうと、到底オレとは住む世界が違う人だと思っていた。
ちょうど昼にかかるようにマテリアルの保守点検があったため近くの定食屋に入るとカウンター席で焼き魚定を食べている彼女を見かけた。
おしゃれなカフェでランチを食べるイメージだったから汚れの目立つ定食屋にいる彼女に違和感を感じた。
それからもマテリアルの近くでお昼時間になるとこの定食屋に行くようになり、その度に彼女の姿を見つけるようになった。
ある時は焼き魚、またある時は生姜焼き、そして四人掛けテーブルに一人で食べていると彼女が入店したが、お店のおばちゃんから席がないと言われて帰ろうとした時に、思わず立ち上がり相席が嫌ではなければどうぞと言うと「コピー機の！ありがとうございます。ここの定食は量もあって安いのに美味しいから助かりました」と屈託の無い笑顔で斜め前の席に座った。

オレのことを知っていてくれていることが嬉しかったし、彼女の焼き魚の食べ方がとても綺麗だったこと、見た目とは違ってとても気さくだったことを知った。
その後も何度かお昼を一緒に食べ、ダメ元で思い切ってディナーを誘ってみるとあっさりOKをもらい、さらには連絡先の交換をすることができた。
そして何度目かのデートで清水の舞台から飛び降りる思いで交際を申し込み付き合うことになった。
その頃にはマテリアルの担当から外れていて、彼女と付き合っていることが他の奴に知られると彼女がオレの同僚に何かを言われるかもしれない、他の奴に彼女の連絡先を教えろと言われるかもしれないから誰にも言っていなかった。
あいつらに彼女のことを言わなかったのは単純に結婚して誰にも取られる心配が無くなるまで我慢していただけだった。
本当は他の営業も気にするほどの美人な彼女を自慢したかったが、自分自身に自信が無くて言えなかった。

彼女はとても苦労人だった。
母子家庭で育った彼女は生活の中心を担っていた、だから妹が大学を卒業するまでは三人で暮らしサポートをするのだと言っていた。
でもその後はオレとの未来を考えてくれているようでオレもプロポーズに向けて準備をしていた。
彩春と結婚して二人で幸せになると疑うことはなかった。

あの日までは