彼がデキ婚するので家出をしたらイケメン上司に拾われました。

昨日は思いっきり泣きすぎて目が痛い。
諏訪さんと朝食を食べた後、片付けは諏訪さんがやってくれたからその間に目元のマッサージを頑張ってみたけど、まだちょっと腫れっぽい。

「そんなに目元を触らない方がいいんじゃないか?多分、相馬が思っているほど腫れている感じはしないよ。」

「そうですか。って、一緒に出勤とかマズくないですか!」

「そうか?駅が一緒だからでいいだろ?出勤をズラすのはお互い時間が勿体無い気がするし」

電車はまあまあ混んでいて扉付近に立っている私の前にまるでガードをするように諏訪さんが立っている。

近い
てか、昨日はずっと抱きしめられてたんだった。
今、思い出すとすっごく恥ずかしい、めちゃくちゃ泣いたし。

「確かに時間が勿体無いですよね」

電車を降りてから少し距離を置いて歩けばいいか
って、思っていたのに
めっちゃ隣!
普通に隣!
しれっと隣!


「流石に二人で並んで出勤とかは」

「会社は社内恋愛禁止では無いし、何か言われたら付き合ってます!で、いいんじゃないか」

いや、よく無い!
自分が女子社員たちにどう思われているか分かってない。32歳高身長に甘いマスク、役職付きの独身。しかも次長への昇進もほぼ確定!狙っている人は多い。

「いや、でも」

「深く考えるな、相馬が思うほど周りは気にしないと思うぞ」

そんな話をしていると会社に到着してしまった。
一緒に入室して諏訪さんは1番奥の窓際の席に、私はその手前の席に着くと、隣の席の同僚に「何?同伴」と軽くギャグを振られたので、家から独立をして引越しをしたら駅が一緒だったと言うと、サラッと納得された。
諏訪さんのいう通りだ、自分が思っているほど私を見ている人はいないということなんだ。
なんだか気が抜けた。
諏訪さんよりも一足先に退社したからスーパーに寄った。
時間的に手の込んだ物は無理だけど、あの家は鍋類が充実していた。
冬はおでんも大きな鍋で作れそうだし、揚げ物用の鍋もあった。
そして、スーパーでは美味しそうな国産豚のロースが半額になっていたから、もう献立は一つしかない!


「何かやる気に満ちた感じだな」

帰宅した諏訪さんがテーブルに並んだ国産豚を使ったカツ丼と半額で手に入れた蛤の潮汁を見てつぶやいた。

「クヨクヨしても仕方がないし、自分の運命に勝つってことで」

「その意気だ!それにしても家でこんな美味いものが食べられるのは嬉しいものだな」

「そんなに褒めてもなにも出ませんよ。でも、誰かに食べてもらえるのは嬉しいです、リクエストも受け付けますよ」

「無理はするなよ」

「今までもやってたことだし、作れない時はちゃんと言います」

「じゃあ、よろしく頼む」


誰かと一緒にする食事は楽しい。
こんなふうに穏やかに過ごせるのは諏訪さんだからなのかも、この関係はいつまでつづけられるんだろう。
いつまでも続いてほしいと思った。


そして、別れを告げられた日から1週間経った。



お昼を知らせるチャイムが鳴り、お昼はガツンと食べたくて定食屋さんに入り生姜焼き定食を注文してからスマホを確認すると諏訪さんから麻婆豆腐とLINEが入っていた。
夕飯のリクエストがあるときはお昼までに連絡をするという暗黙のルールが二人の間に出来ていた。

『了解しました。』

何だか楽しい。
一口グラスに入った水を飲んだところに

「相席いいですか?」

声でわかる
今、朱夏以上に会いたくない人だ。