タクシーで彩春を母親の住むアパートに送ってからそのまま自宅に戻り、車に乗って何度か行ったアパートの近くにある児童公園に向かった。

想像以上に不倫の内容が酷かった。
俺の両親は多分、仲がいい。もしくは、何かあったのかもしれないがその後に仲が良くなったのかもしれないが、やっぱり仲がいい。
俺が中学の時から、父親の海外赴任について行き休みの日は二人で観光に勤しんでいる。
だから、彩春の父親があれほどまで自分の妻や子供を蔑ろにできることに驚いた。

公園に着くと彩春はブランコに座ってゆらゆらと揺れていた。

「彩春」

一度声を掛けてから「話は無事に終わった?」と聞きながら隣のブランコに座り揺れるに任せた。

「母さんが号泣してた。ひどい娘だね」

「彩春はそれ以上に泣き続けたんだから」

「うん、悔し涙だけど」

その答えが彩春らしいと思った。
「田沼英子が逃げられないほどの証拠があったのは良かったけど、確認するのはかなりキツかったな」

「行為自体よりも、父さんの笑顔がキツかったかな」

あの家族の写真には撮影者である父親は写っていない。だから、その時の表情はわからないし、その時の表情を思い浮かべることはできないだろう。
しかし、田沼英子との自撮り写真には満面の笑みの父親が写っていた。
どちらを大切にしていたかがわかってしまう。
好きだったはずの父親からの仕打ちが10年経った今生々しく認識されたわけだ。

「帰ろうか」

「うん」

俺はブランコから降りて手を差し伸べると彩春はその手を握った。
車で手を繋いで歩いて助手席のドアを開けると、彩春はゆっくりと座席についた。

「明日、何処かに行こうか」

「うん」

「何処か行きたいところはある?」

彩春はしばらく窓の外を見つめていたが、「動物園」と呟いた。

「動物園?」

「子供みたいでしょ」

「いいや、動物はいつだって心を和ませてくれるからね、何処がいい?みたい動物はいる?」

「コアラがみたい」

「この辺りだと多摩動物園かな」

彩春はスマホを取り出すと何かを調べ始めた。
「あっ、レッサーパンダ。ユキヒョウもいる。ライオンバスがあるんだって」

無邪気にHPを確認している姿に少し安心する。

「動物園って遠足で行った以来かも」

「多分、俺も」

「楽しみだね」

「そうだな」

動物園の話で盛り上がっている間に俺たちの家に到着した。


沢山思い出を作ろう