今まで、父親の不倫、不倫相手の田沼英子はただの言葉で文字だったものが今、事実として突きつけられ、未だに捨てられた女の誕生日をパスワードにしている田沼英子との思い出が詰まった通話のできないスマホを大切にしまっていた事、数百枚にも及ぶ愛人の写真の中にたった一枚しか無かった家族の写真をみて、今までも沢山傷ついて来た彩春はさらにその傷を大きく広げているだろう。

金の切れ目が縁の切れ目というか、空のATMはただのガラクタとでもいうようにあっけなく廃棄されていた男が、いくところもなく元妻の家に転がり込んでいてもなお、田沼英子に未練を残していた事実が哀れで滑稽だ。

ただ、その哀れさは田沼英子を追い詰めるための武器として使えるかもしれないのだから、人生は何があるかわからないが、父親のハメ撮りを無言で見つめている彩春を男前だと思ってしまった俺がいる。

田沼英子の身体が欲しくてプレゼントするとかマンションの頭金を出すとか、彩春の父親ではあるが、バカなのか?バカなんだろう。
盲目的に誰かを愛する事ができるのはある意味、幸せなんだろうが、その為に家族を犠牲にしていいわけがない。人間には理性というものが備わっている。それが機能しないなら・・・


彩春には悪いが、父サルとでも心で呼ばせてもらおう。

「昌希くん、これが彼女ってこと?」

彩春の父親のことを考えていた時に急に話を振られ何事かと思ったら、田沼英子が不遜な態度で話し始めた。

「自分の欲望てか、性欲?の為に妻子を簡単に捨てるような男のDNAを受け継いでいる女とかやめた方がいいよ、昌希くん」

いやいや、お前こそ金さえ持っていれば誰彼構わず咥え込む様なヤツが何を言っているんだと思い、父親を見ると下を向いて項垂れている。
自分のせいで娘が辱められているのに、何も言わない、というよりも言う権利を失っているんだろう。

「DNAなんて、確かに妹さんはそうかもしれないが、両親を反面教師にして努力の上自分を見失わない彼女は表面だけでなく内面も綺麗だよ。そんな彼女を愛してる。外側だけを変えたところで芯が腐っていればいずれ身を崩すだろうね」
それが、今なんだ。

彩春は今までの会話も録音しているはずだし、ゲスいスマホもある。
これで、時効もクリアできる証拠を手に入れたし、あとは弁護士に任せて追い詰めるだけだ。

慰謝料請求の話になると、分が悪くなり田沼英子は慌てて帰って行った。

俺たちも、父親を残して店を後にした。