大きくて力持ちで大好きだった、その後は身だしなみに気を使い、母さんに靴を磨けと怒鳴っていた人は白髪もシワも多く、背中を丸めて私の隣に座っている。

打ち合わせ通りにまずは私と父さんが店に入ってから昌希さんにラインをした。

「父さんに合わせたい人がいるの」

「恋人か?彩春の婚約者と朱夏が結婚すると聞いたが・・」

「その問題はすでに解決済みだから、間違っても私を可哀想なんて思わないで、朱夏が不倫をしていた事は聞いた?」

父さんは下を向き、膝の上で手を握り締めている。
「母さん・・美冬から聞いてる」

「そんなところを親から受け継いでるのよね」

「本当にすまなかった。美冬も、お前たちのことも不幸にしてしまった」

そんな安い謝罪とかいらない。
「朱夏の不倫相手って朱夏以外にも不倫をしている人がいたの、朱夏は浮気相手の中でその他大勢の一人みたいなものだった」

「酷い奴だな」

「あなたもね」

父さんは自分の膝に爪を立てている。

「その朱夏の不倫相手の中で“本命の愛人”も呼んだの、ぜひ父さんに会ってほしい」

そう言った時にパーテーションの向こうから楽しげな女性の声が響いてきた。

「昌希くんすっごい素敵なお店だね」

「落ち着いていて料理もうまいよ」

「昌希くんって中学の時もかっこよかったけど、大人になってこういうセンスのいいお店を知っているとかますます素敵になってて同窓会に参加してよかった」

「俺も田沼さんに会えてよかったよ」

昌希さんが席に誘導すると田沼英子が何かを察したのか逃げようとしたところを壁側の席に押しやり逃げられないように通路側に昌希さんが座った。

父さんは目の前に座った田沼英子に釘付けになり、「英子ちゃん・・・」と呟いた。