彼がデキ婚するので家出をしたらイケメン上司に拾われました。

秋刀魚の焼き魚定食を食べていると相席を求めてくる人物があった。
聞き覚えのある声、断ればまだ私がこだわっていると思われるのは悔しいから、平然とした態度で「どうぞ」とだけ答えた。

「結局、朱夏ちゃんと結婚する」

知ってるし、てか、知ってるのを知ってるくせに今頃何なのだろう。
答えるつもりはないから、無心に秋刀魚を食べる。
こんな事なら、生姜焼きにすればよかった。あっちならさっさと食べられるけど、よりにもよって秋刀魚だし、箸を駆使してひたすら食べた。

「来年の春、当初の予定通り卒業を待って入籍をするつもりだ。ただ、相手が彩春から朱夏ちゃんになったけど」

悠也の目の前には生姜焼き定食が運ばれてきて三角巾は無いが包帯が巻かれた手で上手く箸を操っていた。

「おめでとうでいい?」

「まぁ、おめでたいのは朱夏ちゃんの頭かな」

悠也ってこんな事をいう人だったんだ、私と付き合っていた時は他人を揶揄する様なことをいう人じゃなかった。

「出雲さんの奥さん、あっ朱夏ちゃんの不倫相手の奥さんなんだけどその人から100万円の慰謝料請求があってオレにその金を出せないかって言ってきたんだけど」

「細矢さんに払って欲しいって言ってきたの?」

生姜焼きを咀嚼しご飯を一口入れると数回噛んだ後味噌汁で流し込む、普通の動作なのに下品に見える。こんな感じで食べてたっけ?
何度かその行動を繰り返していくと食器は綺麗になった。

「誓約書を見せてもらったんだ、そこには必ず朱夏ちゃんが働いた対価で支払うようにと書かれてたんだけど、君の妹はまたオレを騙そうとしてたみたいだね、とりあえず報告しておこうと思ってね」

あの子は奥さんが言った言葉を何も理解してないんだ。私が黙っていると悠也はコップに入った水を一気に飲むと立ち上がった。

「もうあの女を信用することはないけどね。じゃあ」

悠也はそう言うと会計を済ませて出ていった。
朱夏は結局、反省することなく楽をすることを選択したんだ。朱夏に騙されたという気持ちがあるんだろうけど、結婚しないという選択もあった。結婚すると決めたのは悠也だ。それなのに私に対して当たるのはお門違いだ。

うんざりして化粧直しに行くと、今日はあの二人組がいなかった。
よかった、今日いいがかりをつけられたら精神的ダメージを受けたかもしれない。

明日、家に寄ってみる?
昼間だと母さんはいないかな?
父さん(あいつ)が一人でいたら地獄だよね。

鍵に付いたトパーズを見つめながら考えを巡らせた。