「彩春、ごめんね」

何に対しての“ごめんね”なんだろう。

「この間の言葉、彩春に厳しくした訳じゃなくて彩春に甘えていた。朱夏に甘かったんじゃなくて朱夏には何を言ってもわからないし、聞き分けがなくてそれを諌めるのが面倒で、聞き分けのいい彩春に負担をかけてしまって。この前、彩春に言われてハッとしたの。たくさん傷つけてしまって」

「そうだね、いつだって朱夏は思う通りになって私はずっと我慢してた。それでも、母さんと二人で朱夏の卒業まで頑張ってそれが絆だと・・・」

喉に蓋がされたようになって言葉が出てこない。
視界がぼやけてくると同時に、私の体を抱く昌希さんの腕に力が入る。
涙が頬を伝う。

なんで?
どうして涙がでるの?

「母さんはずっと朱夏の母さんで、朱夏が独立すれば私の母さんになると思ったのに、ひょっこり父さんが現れて」

そうだ、今度は父さんに母さんを取られるからそれが悔しくて悲しいんだ。

「今更、どんな言葉を彩春に言っていいのか。本当にごめんなさい」

「父さんは?」

「それは、その住むところがないらしくて今はここにいるの、だから彩春、父さんと話をしてみてくれないかしら」

ああそうか、結局、電話してきたのは父さんと話して許してあげてということなんだ。
一瞬でも母さんが私のことを理解してくれたと思ってしまたことがくやしい。

「父さんに会うときはこっちから連絡します」

そう言って電話を切った。

「大丈夫?」

耳元で話されると少しくすぐったい。
甘えたい。

「大丈夫じゃないです」

「よく言えました」

昌希さんは耳から首筋へとキスを落としていく。

「隣の部屋にいるから」

「向こうは夫婦だし、こっちは恋人同士なんだから多少声が漏れても問題ないだろ」

「でも・・んっ」
話の途中で唇が重なり、昌希さんの舌が私の唇を割って入ってきた。