茶の間のテーブルにはコンロの上のすき焼き鍋から胡麻の風味が漂う。

「「「うまっ」」」

豚バラをニンニクとたっぷりの胡麻油で炒めてからだし汁と味噌を入れて豆苗と豆もやしを入れる。後はしんなりするまで待ったら出来上がり。豚バラを半額でゲットできた時の、相馬家の鉄板メニューだ。

「よかった。豆苗とかもやしって安いのに栄養たっぷりだから、よく食べてたんです」

希未さんが優さんに泊まると連絡をしたら優さんが“自分の”着替えも持参してやって来たのだ。
昌希さんは呆れつつも楽しそうだ。


「明日、希未さんが一人だとちょっと不安じゃない?」

「大丈夫よ」

それでも、慣れない家で一人にするのは心配だと思ったら優さんが持参したバッグを立てた親指で指をさした。
「それなら、俺がここでリモートで仕事するからいいよ」

「いいのか?そこまでしてもらうのは気がひけるし、それ以上に見返りが怖いな」

「まさか、あのマンションを格安で借りてる身としては当然だよ」

しばらく四人で話をしてから二階で二手に分かれて部屋に入った。


「この家がこんなに賑やかになったのはいつぶりだろうな」

簡単にシャワーだけにして昌希さんの腕の中にいる。

「希未さんとたくさん話をして楽しくて、お姉さんがいたら私はもっと違った感情を持てたのかな。父さんのせいで母さんと力を合わせて必死に生きてきた。でも、父さんとこっそり会っていた母さんのことを信じられなくなって、もう私には家族は居ないと思おうとしたけど、昌希さんを見ていると、嫌だから見ないふりをするのは違うのかも知れないって思った」

「そうだね、お母さんとの時間は無限ではないから、後悔する前にしっかりと話をした方がいい」

そう思っていても、父さんと家で会ってから一度も母さんから電話が来てない。
結局、母さんは父さんを選んだ。
そして、私は父さんを信じることができない。
そんな風に思っているとスマホが震えた。


起き上がってスマホに表示された母さんとという文字を見つめているうちに震えは収まり静かになった。
昌希さんが私が落ち着くいつものこと、背後から抱きしめてくれた。
「お母さんも、もしかして今まで悩んで電話ができなかったのかも知れない、勇気を出してくれたのなら、彩春も勇気を出したら」

「うん」

着歴から母さんの番号をタップした。