「初めまして、昌希の伯父の市川一郎です。こんな綺麗な人を連れてくるなんて、先に言ってくれよ。緊張するじゃないか」

そう言って豪快に笑いながら社長室に案内してくれた。

「母さんはどうだった?」

「元気そうだったよ」

「いつも悪いな、お前ばかりに面倒ごとを押し付けるような形になって」

「最終的には俺の判断で決めた事だから、それに今の仕事も不動産業に活かせればいいと思うし、優にもIT部門で入ってもらおうと思ってる。

「おおそうか、これでわたしも会長職にでもついてゆっくりさせてもらおうかな」

「そんな訳ないでしょ。俺は畑違いのところから来るんだから」

伯父と甥で仲がいいんだ。私は父方の祖父母と親戚達とは疎遠だし母方の祖父母はすでに他界しているし母はひとりっ子で親戚はいないから、二人の関係がとても羨ましい。

「そういえば、元カノ襲撃事件はどうなった?」

「ああ、田中弁護士のおかけでスムーズにいきました。ガッツリ、リノベーションしてもらいますよ」

市川さんは私の方を向いて
「怖い思いをしたんでしょ、ガッツリ慰謝料を取ってやればいいよ、いしゃ(医者)だけに」

「この世にそれを笑う人はいないでしょ」
私も今一ピンとこなくてぼんやりしていると昌希さんがツッコミを入れていた。

「じゃあそろそろ帰るから」

「おう」と言って市川さんは手を挙げた。

賑やかな町並みの中を走りながら、ふと気づいた。
バレてもいいと言うのは辞める事がわかっていたからだったんだ。
「会社でバレたらどうしようって一人でヤキモキしたけど、そういうことだから、昌希さんは気にしてなかったんだ。何だか頭に来た」

「ははは、ごめんごめん。でも、いつ言おうか悩んでいたことは嘘じゃないよ」

「でも、今日一日でたくさんの昌希さんのことを知ることができて、それは嬉しい」

「まだ二人の関係は始まったばかりだけどこれからたくさんお互いを知ってこう」

すっかり日が落ちて、その代わりにさまざまな色の光を放つ町の中を走っていく。