家を出て有料道路を走り続けていくと海が見えてきた。
海を見るのはどれくらいぶりだろう。
高校時代も大学時代もどこかに出かける余裕が無く、社会人になってからも海に行くことなんてなかった。悠也とのデートでも海に行っていないから中学生以前ということかもしれない。
それなら、お父さんと行ったんだろうか?
記憶にない。
でも、久しぶりだと思ったんだから行ってはいるはず、遠足かな?
「海は好き?」
「うん、なんか落ち着く」
「日本は海に囲まれているから、海は身近な存在という感覚があって安心するとも言われているけど、それって海に包まれる安心感ってことなんだろうな」
「お母さんのお腹の中とか、誰かの腕の中とかそんな感じかな?」
「それなら、俺は彩春の海になれるといいな。って、クサイな」
「うん、クサイ」
二人の笑い声が車内に響く。
「海を見て懐かしいって思ったんだけど、何が懐かしいのかわからないんだよね。この道路、ずっと海沿いなのね。すごく素敵」
「俺もこの道が好きなんだ。祖母が海の見えるところでのんびりしたいって気持ちがわかるな」
車は有料道路を抜けてからも海岸沿いを走り、しばらくして大きな建物が見えてきた。
「凄い」
「海が見えて自然があって、設備もいろいろ整っていたから、祖母を見学に連れきたら、すごく気に入ってくれて、祖母をホームに入れるって言う言い方だと何だか罪悪感を感じたけど、俺が一緒に住んだところで、俺が祖母を“みている”という自己満足になるんじゃないかと思ったんだ」
入居費用が結構高そうな施設だけど、それを支払える財力があるのなら、この選択はお互いのためなのかもしれない。
面会の申し込みをしてゲストルームで待っていると上品そうな老婦人がスタッフが押す車椅子に座ってやってきた。
「ばあちゃん、調子はどう?」
「もちろんいいわよ。ご飯だって自分で作らなくても美味しいものが食べられるし、ここにいる方はみんないい人だかりだし、何より景色がいいわ」
「ところで」おばあさまはそう言うと私の方を向いたので慌てて自己紹介をした。
「昌くんが女性を連れてくるなんて初めてだからびっくりしたけど嬉しいわ」
昌希さんが車椅子を押して三人で庭を散歩する。
所々にベンチが置いてあり休憩ができるようになっていておばあさまは車椅子から降りてベンチに座った。
「歩けるんだけどね。車椅子なんて大袈裟よね」
「まぁ、不安定で危ないからな。リハビリはしているんだろ?」
「体操する所があるから、ちゃんとやってるわよ」
「そうだ、庭だけど彩春が綺麗にしてくれたんだ」
「まぁ、よかった。億劫でそのままにしていたら草がボウボウになってしまったのよね。ありがとう、彩春さん」
「いえ、昌希さんも一緒にやってくれているので。春にはチューリップが咲く予定なので楽しみにしていてくださいね」
「チューリップの福袋、50球くらいあったよな」
「そう、しかもどんな花が咲くかわからないの」
「それは本当に楽しみね」
しばらく話をしてからおばあさまを部屋に送って帰ろうとした時、耳を貸してと言われてかがむと「昌くんをお願いね」と小声で囁かれた。
「はい、また一緒に伺ってもいいですか?」
「もちろんよ、嬉しいわ」
スタッフの方に挨拶をしてホームを後にした。
海を見るのはどれくらいぶりだろう。
高校時代も大学時代もどこかに出かける余裕が無く、社会人になってからも海に行くことなんてなかった。悠也とのデートでも海に行っていないから中学生以前ということかもしれない。
それなら、お父さんと行ったんだろうか?
記憶にない。
でも、久しぶりだと思ったんだから行ってはいるはず、遠足かな?
「海は好き?」
「うん、なんか落ち着く」
「日本は海に囲まれているから、海は身近な存在という感覚があって安心するとも言われているけど、それって海に包まれる安心感ってことなんだろうな」
「お母さんのお腹の中とか、誰かの腕の中とかそんな感じかな?」
「それなら、俺は彩春の海になれるといいな。って、クサイな」
「うん、クサイ」
二人の笑い声が車内に響く。
「海を見て懐かしいって思ったんだけど、何が懐かしいのかわからないんだよね。この道路、ずっと海沿いなのね。すごく素敵」
「俺もこの道が好きなんだ。祖母が海の見えるところでのんびりしたいって気持ちがわかるな」
車は有料道路を抜けてからも海岸沿いを走り、しばらくして大きな建物が見えてきた。
「凄い」
「海が見えて自然があって、設備もいろいろ整っていたから、祖母を見学に連れきたら、すごく気に入ってくれて、祖母をホームに入れるって言う言い方だと何だか罪悪感を感じたけど、俺が一緒に住んだところで、俺が祖母を“みている”という自己満足になるんじゃないかと思ったんだ」
入居費用が結構高そうな施設だけど、それを支払える財力があるのなら、この選択はお互いのためなのかもしれない。
面会の申し込みをしてゲストルームで待っていると上品そうな老婦人がスタッフが押す車椅子に座ってやってきた。
「ばあちゃん、調子はどう?」
「もちろんいいわよ。ご飯だって自分で作らなくても美味しいものが食べられるし、ここにいる方はみんないい人だかりだし、何より景色がいいわ」
「ところで」おばあさまはそう言うと私の方を向いたので慌てて自己紹介をした。
「昌くんが女性を連れてくるなんて初めてだからびっくりしたけど嬉しいわ」
昌希さんが車椅子を押して三人で庭を散歩する。
所々にベンチが置いてあり休憩ができるようになっていておばあさまは車椅子から降りてベンチに座った。
「歩けるんだけどね。車椅子なんて大袈裟よね」
「まぁ、不安定で危ないからな。リハビリはしているんだろ?」
「体操する所があるから、ちゃんとやってるわよ」
「そうだ、庭だけど彩春が綺麗にしてくれたんだ」
「まぁ、よかった。億劫でそのままにしていたら草がボウボウになってしまったのよね。ありがとう、彩春さん」
「いえ、昌希さんも一緒にやってくれているので。春にはチューリップが咲く予定なので楽しみにしていてくださいね」
「チューリップの福袋、50球くらいあったよな」
「そう、しかもどんな花が咲くかわからないの」
「それは本当に楽しみね」
しばらく話をしてからおばあさまを部屋に送って帰ろうとした時、耳を貸してと言われてかがむと「昌くんをお願いね」と小声で囁かれた。
「はい、また一緒に伺ってもいいですか?」
「もちろんよ、嬉しいわ」
スタッフの方に挨拶をしてホームを後にした。



