家具とかは無いけど、当面必要な衣料品などを取りに行くと言ったら課長が車を出してくれた。
申し訳なくて一度は断ったが、なるべく多くのものを持ち出したかったから甘えることにした。
朱夏がいないことを祈りながらアパートに行くと朱夏は出掛けているらしく母がひとりでいた。

「彩春、連絡もなくどうしたの?朱夏も帰ってこないし」

「ごめん、母さん」

「朱夏がどこに行ったのか知ってる?」

朱夏は母さんが帰ってくる前に悠也と出て行ったんだろうかだとしたら

「朱夏は多分、彼のところじゃないかな」

「そう、それなら彩春はどうしたの」

「母さん、私はしばらくこの家を出るね。そのままここには戻らないかもしれない」

「彩春にはずっと苦労ばかりかけてしまって、朱夏も来年の春には大学も卒業するし、もう自分のための人生を歩みなさい。もう大丈夫だから、お金も自分のために貯蓄しなさい」
と母は頷きながら話た。
「ただ、昨夜はどうしたのかは聞かせて。朱夏の彼と会ったんでしょ?」

誤魔化したところでいつかは知られてしまうし、自分に関することだけ言ったとしてもいいよね。
「朱夏の彼は私と結婚を約束してくれた人だったの。だけど、朱夏と結婚するために私たちは別れることになった。詳しい話は二人に聞いてもらっていい」

流石に母の表情は強張っている。

「それで彩春がこの家を出ていくね」

「うん、だからこれから住む場所はしばらく秘密にする。そして、朱夏とはしばらく連絡を取らないつもり。母さんには時々連絡するね」

「彩春はそれで納得したの」

昨日散々泣いたのに、やっぱり涙が出てしまう。

「納得なんてできないけど、するしかないから」

「そう」
母は私を抱きしめて背中をトントンと叩いてくれた。
ひとしきり母の胸の中で泣いた後は荷物を持って家を出た。