「くくくっ」
「ファル、笑いすぎ!」

 レンが不機嫌に怒る。

「だから言っただろう。
お前の見た目は幼子だと」
「そんなことない!
確かに背は低いけど、平均よりちょっと低いくらいだったんだから!」

 いや、人属の中ですら小さいぞ。
この国では15才で成人だが、人属は低くてもそのくらいになれば180近くはある。
レンは150くらいか。
その分可愛らしさがあるが、さすがに顔つきも幼い。

「体年齢的とは、どういう意味だ?」
「そこから先はお前が戻ってきて、レンが話すまでお預けだ。
幻滅したなら諦めろ。
多分これ以上は大して成長せん」
「ファルひどい!
もう少しは成長するし!」
「俺達とは性が違うのだから、成長しても大して変わらんだろう。
それがお前の個性だし、俺はそんなところも愛おしいぞ」
「な····なに、真顔、で、」
「真剣だからな。
口説ける機会は逃さん」

 おい、俺を置いて楽しそうに唐突に甘い会話するな。
赤い顔がそそるじゃないか。

「と、とにかく!
グランさん、小さい子じゃないの。
でもグランさんに相応しい人はきっと他にいると思う。
それにまだ会って数日程度の人にこれ以上の事も教えられない」
「それはかまわない。
番の感覚がないレンに、信用しろなんて言わない。
だが嫌いじゃないなら、少しずつ俺の事を知ってくれ。
秘密にする事は何もないが、俺の事を話すのにも今は時間が足りない。
もちろんレンの気持ちに従う。
それに獣体に触り放題だぞ?」

 ピクリとレンが反応する。

「なんの、こと····」
「レン、気づいてないと思うか?
かなりの頻度で俺の耳と尻尾をチラチラ見てるよな?
獣人でも獣体になれる可能性は半々だが、俺は獅子になれるぞ?」

 誘うようにユラユラと尻尾を動かすとレンの目が釘付けになった。

「おい、卑怯だぞ」
「使える物は使うだけだ」

 黒竜にはない手触りだからな。

「ほ、ホントに触っても良いの?」
「もちろんだ。
鬣も俺のはフワフワしてるぞ」
「たてがみ····ふわふわ····」

 あぁ、可愛いなぁ。
しまりのなくなったその顔、舐めまわしたい。
しかし今は紳士的に微笑まねば。

「どうだ?
少しずつ、知ってくれないか?
駄目な時は駄目でいいんだぞ?」

 俺は笑顔で畳み掛ける。

「す、少しずつで、良いなら。
でも駄目な時は駄目だよ?
きょ、今日から、触って、良い?」

 ちょろいな、レン。
自分でやっといて何だが、むしろ心配になる。

「あぁ、ベッドも1つだけだし、俺は獣体で眠るから、好きなだけ触って良い」
「おい、ふざ····」
「ホント?!
獅子と一緒に寝られるの?!
やったぁー!」

 物言いたげな黒竜は無視だな。
にしても、レンがちょろすぎる。
もちろん手を出しはしないが、もう少し警戒しても良くないか?
やっぱり心配になるぞ。

「チッ、レンに手を出したら殺すからな」

 黒竜が消えた。
転移をこんなに易々とか。
しかし、余計な一言を。

「大丈夫だ。
騎士として誓うが、レンには節度ある付き合い方を約束する」
「ふふ、ファルの考えすぎだよね。
グランさんはそんな事しないってわかってるよ」

 くっ、澄んだ目で見ないでくれ。
獣体になるのは色々な欲を抑える為でもあるんだ。

「ありがとう。
明日は早朝に発つつもりだから、寝る準備ができたら早速レンの望みを叶えよう」
「はーい!」

 くっ、可愛い、襲いたい!
しかしやっぱり10才いかないようにしか見えない。
ある意味助かる!

 そうして身支度を整えた俺は石鹸の良い香りに包まれた番にモフられまくった。
尻尾の付け根を触られた時にとある場所に血がたぎったのは秘密だ。

 翌朝、レンお手製の朝食を食べてウォンの背に乗って森を抜けた。
レンの手料理は絶品だ。
騎士団に戻って報告する時に痛感するだろう、自分だけ生き残った不甲斐なさを持たされた弁当の香りが少しだけ軽くする。
黒竜はいなかったが、キョロがレンと見送ってくれた。