「奏さん…大丈夫ですか?」 

と、私は奏さんに聞きました。

「…」

と、奏さんは私の質問には答えずに、無言でした。

無言ということは、大丈夫ではないということなのでしょうか。

「私はどうしたら良いですか?」

と、私は聞きました。

奏さんの為に出来ることがあるなら、私は何でもしましょう。

親友ですから。

すると。

「…分かってるよ。俺が瑠璃華さんの隣にいることが、どれだけ分不相応なことか…」

と、奏さんは小声で呟きました。

はい?

…いきなりどうされたのでしょう、奏さんは。

「奏さん、大丈夫ですか?」

と、私は再度尋ねました。

すると。

「…うん、平気だよ」

と、奏さんは答えました。

そうですか。

ひとまず、返事を得られたので良しとします。

「一体何者なのですか、彼は」

と、私は聞きました。

「さっきも言った通り、小学校のときのクラスメイト…」

「奏さんのご友人ですか?」

「いいや、クラスメイトだったってだけで、友達じゃない」

と、奏さんは言いました。

なんと、そうだったのですか。

とんでもない誤解をしていたのは、私だったのですね。

てっきり、奏さんの旧友かと思っていました。

「…俺さ、逃げる為に、星屑学園を受験したんだよね」

と、奏さんは非常に唐突に、そう語りました。

いきなり、一体何の話ですか。
 
逃げる為?

「小学校のときから、同級生にからかわれたり、馬鹿にされたり…いじめられたりしてたんだ」

と、奏さんは告白しました。

…。

「それが嫌で、自分のこと知ってる人がいない学校に行きたくて、地元の公立中学じゃなくて、わざわざ私立の星屑学園を受験したんだ」

「…」

「…でも無駄だった。何処に行っても俺は邪魔者だし、厄介者のお荷物で…。それは何処に行っても、変わらないんだよね」

と、奏さんは、薄ら笑いを浮かべて言いました。

とても、切ない笑顔です。

見るに堪えない、とはこのことを言うのかもしれません。

「奏さんはお荷物ではありません。私の親友です」

と、私は言いました。

奏さんが、自分に対してどのような評価を下すかは、奏さん次第ですが。

しかし、少なくとも私にとって。

奏さんは、決して鼻つまみ者でも、邪魔者でも、厄介者でも、お荷物でもありません。

れっきとした、私の初めての、一番の親友です。

それだけは、変わりない、揺るがない事実です。

「うん…瑠璃華さんはそう言ってくれるよね。ありがとう…」

「はい」

「でも、そんな瑠璃華さんの優しさを感じる度に…。俺は罪悪感に駆られるよ。俺みたいな人間は、瑠璃華さんの隣にいちゃいけないんだって」

「…はい?」

と、私は尋ね返しました。

何ですか、それは。

意味不明、理解不能です。

「いつも守られてるだけ、庇ってもらってるだけなのが、凄く…凄く悔しい」

と、奏さんは言いました。

…理解不能です。

「…いつも俺に付き合ってもらって…。ごめんね、瑠璃華さん」

と、奏さんは言いました。

理解不能です。

奏さんの気持ちを、理解する努力をしようと決めたばかりなのに。

それでもなお、理解不能です。

何故謝るのですか。

奏さんは、何も悪いことはしていないでしょうに。

しかし。

「本当ごめん…。ごめんね、瑠璃華さん」

と、奏さんは謝るばかりでした。