「おはよう、瑠璃華さん。あけましておめでとう」

と、奏さんは新年一発目の挨拶をしました。

年が明けたら、そのような挨拶をするんですよね。

とても新鮮です。

「あけましておめでとうございます、奏さん」

と、私は言いました。

「メールにも書いたけど…今年も宜しくね」

「こちらこそ。しかし今年と言わず、これからも永続的に、宜しくしてくださって結構ですよ」

と、私は言いました。

「本当にね。これからも、ずっと宜しく」

「はい。宜しくお願いします」

と、私は言いながらお辞儀しました。

これぞ新年の挨拶、ですね。

新鮮な経験です。

「それでは、早速初詣に行きましょうか」

「うん、行こう」

と、奏さんは言いました。

私は奏さんの後ろに回って、彼の車椅子のハンドルを握りました。

奏さんの車椅子を押すのも、今年初ですね。

なんて言っていたら、今日一日、何をするにも今年初になってしまいますね。

「瑠璃華さん、昨日はいつも通り寝てたの?」

と、奏さんは尋ねました。

「?何故ですか?起きていましたよ」

「あ、そうなんだ。メールの返信がなかったら、寝てるのかと思った」

と、奏さんは言いました。

あぁ、それには事情があります。

「それについては、申し訳ありません。実は手が離せなかったもので」

「年越し番組でも観てた?」

と、奏さんは聞きました。

何の話ですか。年越し番組って。

「お正月茶漬けを食べていました」

「…?何それ…」

と、奏さんは尋ねました。

奏さんは、お正月茶漬けをご存知ないようです。

「白米に、お餅と、お雑煮と、おせちの材料を乗せてお茶をかけた、ハイブリッドな料理です」

「…うぉえ…」

「どうされました?」

と、私は聞きました。

今、変な声を出しませんでした?

「…それ、それ美味しかった…?」

と、奏さんは顔をしかめて聞きました。

お正月茶漬けの味ですか?

「比較対象がないので、美味しいかどうかは分かりません。ただ…」

「…ただ?」

「もう一度食べたい、とは思いませんでした」

「…だろうね」

と、奏さんは真顔で言いました。

今年初の、奏さんの真顔モードですね。

ありがとうございます。