それから、およそ10分後。

「お待たせしました、いちごパンケーキ2倍と…アッサムティーとマシュマロ付きココアです」

と、ホール係のクラスメイトは言いました。

どうやら、碧衣さんのテーブルに料理を届けたようですね。

ピークは過ぎているので、先程のように、30分近くも待たせるということはなかったようです。

碧衣さんも紺奈局長も、良いタイミングに来店されましたね。

もう少し早かったら、散々待たされていたところでした。

「あ、来ましたよー局長。学生が作ったにしては、結構様になってますね。さぁ二人で食べましょうか」

「それと、その…フォークとナイフも、一人分しか持ってこなかったんですが、やっぱりもう一人分…」

「はい、局長あーん。あーんしてくださいほら」

「1110番。人の話をまともに…。…それと、熱いから無理矢理口に押し込むんじゃな、もごもご」

「はいっ、どうぞ。美味しいですか〜?」

と、碧衣さんの嬉しそうな声が聞こえてきます。

とても微笑ましいですね。

実際に、現場をこの目で見られないのが口惜しいです。

「あの…フォークとナイフは…」

「美味しいですか?美味しいですか局長?うふふ。僕も食べよーっと」

「あ、わ、分かったから。1110番、良いか、人前で、」

「はいっ、いちごどうぞ〜っ!あーん」

「もがっ」

「…フォークとナイフ…要らないようなので、帰りますね…。ごゆっくり…」

と、ホール係のクラスメイトは、乾いた声で言いました。

どうやら、諦めたようです。

賢明な判断です。

紺奈局長と仲良くしているときの碧衣さんは、周りの声なんて聞こえていませんから。

割って入ろうとしても無駄です。

これも、お二人の仲が良いからこそですね。

「局長の〜、口をつけたフォークを僕も…うふふふふ」

「…不気味…」

と、紺奈局長は呟いていました。

が、勿論そんなことは、碧衣さんには聞こえていません。

ついでに言うと。

「…なんか、今ヤバい客が来てるんだけど…」

「私も見た。イケメンだと思ったら、男の人と腕組んだり、間接キスしたり…大丈夫かなあの人。通報した方が…」

「いや…。もうしばらく様子を見よう。声かけるの怖いし…」

と、教室の隅で、ホール係のクラスメイトは、ひそひそと話していました。

私の耳にも届いているくらいなのですから、当然、同じ教室にいる碧衣さんにも、聞こえているはずなのですが。

「うふふ。幸せですね局長?恋人同士で文化祭デート…。うふふふ」

と、恍惚として碧衣さんは言いました。

あの状態の碧衣さんには、何を言っても聞こえていないでしょうね。

とても微笑ましいです。