しかし。

『…』

と、電話の向こうの人は、何故か無言でした。

…何でしょうこれは。今流行りの、無言電話という奴でしょうか。

だとしたら、私は即刻この受話器を置くべきですね。

それとも、私は受話器の持ち方を間違えているんでしょうか?

普段は無線で通信することの方が多いので、電話を使う機会がありません。

使い方を誤っている可能性はあります。

あるいは、やはり本当に無言電話なのかもしれません。

すると。

『…瑠璃華さん、いつもそんな感じで電話、出てるの?』

と、受話器の向こうから、奏さんらしき人物の声が聞こえました。

なんと。電話をかけてきたのは、奏さんなのですか。

いえ、まだ分かりません。

電話というものは、相手の電話番号さえ分かっていれば、いつでも何処でも、誰からでもかけられるものです。

もしかしたら、良からぬことを企んでいる誰かが、私を陥れる為に。

奏さんの声を真似て、私に電話をかけてきたのかもしれません。

そして、高額の壺や味噌なんかを、売りつけてくる気かもしれません。

残念ながら、私はその手に乗ってあげる訳にはいかないのです。

「あなたは何者ですか」

『えっ』

と、電話の主は驚いたような声で言いました。

さては、しらばっくれようという作戦ですね?

「電話の向こうが見えないからといって、私を罠に嵌めようとしているのですか?」

『え?いや、何で?違うよ』

「違う…?ではあなたは何者ですか」

『俺だよ、あの、』

と、電話の主…もとい。

詐欺師は言いました。

この人物は詐欺師であると、たった今確定しました。

何故なら、私は知っているからです。

研究所にいた頃、局長に教えられました。

電話で「俺だよ俺」とか言う奴は、所謂オレオレ詐欺であると。

つまりこの電話もそうなのです。

まさか、奏さんの声を真似てまで、オレオレ詐欺を敢行するとは。

実にあっぱれ、かつ手の込んだ手腕です。

しかし、私はセキュリティ対策万全の、最新型『新世界アンドロイド』です。

まさか、オレオレ詐欺に引っ掛かる訳にはいきません。

よって、この電話は無視…。

…しようかと思ったのですが、やめました。