言われて前を見ると、本屋へ立ち寄る藍くんに続いて、コソコソと入っていく。
 近くを歩くふりをして、藍くんのリュックに手を伸ばした。

 カシャッ。

「あーーっ!」

 安斎さんの声に驚いたのか、二人組が走り出す。

 逃がさない!
 わたしは見た。そして、リュックから何かを取った証拠をスマホにおさめた!

「えっ、ちょっと碧……」

 全速力で追いかけているから、藍くんの言葉も聞こえない。
 後ろで安斎さんと矢野さんが叫んでいるけど、おかまいなし。

 いくらファンだからって、人の物を盗むなんて許せない!

「待ぁ〜てぇ〜!!」

 ギャーーッと女の子たちの声が響いて、まわりの通行人が振り返っていく。

 一人の足がもつれて、道路に転んだ。少し先を走る友達は、気づいていないのか止まらない。

「あ、愛梨沙(ありさ)……!」

 助けを求める子の後ろで、わたしは追うのをやめた。

 とうとう、もう一人の姿は見えなくなってしまった。

 何かを握りしめたまま、女の子はうずくまっている。泣いているのかな。肩が揺れて、顔を上げられないみたい。

「……あの、大丈夫?」