朝の教室は騒がしい。いつも通りなのだけど、今日は一段と視線を感じる気がする。

 席に着いて外を眺めていたら、女子に囲まれた。
 腕を組んで不満そうに唇を尖らせている子と、その傍に派手目な顔立ちをした数名。

 彼女たちは、いわゆるスクールカースト一軍に属するメンバーだ。なんとなく予想はつく。

 廊下へ出て、人気のない美術室へと連れられた。

「三葉くんって、八城くんと付き合ってるってほんと?」

「えっ、いや……」

 ドアを閉めるなり、中心にいた子がわたしに詰め寄って来る。

 身長はほぼ変わらない。可愛らしい目がツンと上がって、ネクタイをくいっと引っ張った。

「うちのクラスの八城椿! 昨日、友達が告ったとき、女子には興味ないって言われたんだって。三葉くんとキスしてたって」

「し、してないしてない! 誤解だよ」

 自分は無実だと訴えるように、軽く両手を挙げた。

 付き合ってなければ、キスもしていない。だから、嘘はついてない。

 それにしても、もう話が広まってるなんて。女子の噂の恐ろしさを、つくづく痛感した。

「後ろ姿だったから、ちゃんと見てないとは言ってたけど。じゃあなに? 女子に興味ないって、どういうこと?」

「そんなこと、僕に聞かれても……」

「だいたい、男子が男子を好きなんてありえない。同性愛とか、そんなのマンガやドラマの世界だけの話でしょ。ねえ、三葉くんもそう思うよね?」

 あまりの迫力に、たじろいでしまう。
 誰が誰を好きだとしても、関係ないんじゃないかな。今まで知らなかっただけで、身近に想いを隠している子だっているかもしれない。

「恋するのは……自由ですよ。たとえ、椿くんが誰を好きでも」

 今回は断る口実だったかもしれない。でも、椿くんが同性を好きでも、わたしは応援したい。あの時は、いきなりでびっくりしたけど。

 告白って、とても勇気がいることでしょ。ダメかもって、覚悟がいる。あの子にとっては、男子を好きだから受け入れられないという回答の方が、傷付かない気がした。自分を責めなくていいから。

 椿くんの、ちょっとした優しさだったんじゃないかな。