「はい、というわけで、体育祭があと1ヶ月に迫ってきました。…だれか実行委員やりたい人いませんか?」


 体育委員の男子の声が教室に響く。


 夏川高校の体育祭は、その名の通り夏に行われる。


 そして今日はその体育祭のちょうど1ヶ月前。


 クラスから男女2人の実行委員を出す話し合いが行われている。

 
「俺、成瀬がいいと思うー」


 クラスの男子が成瀬、つまりライトくんを推薦する。


 確かに、ライトくんはこういう時によく推薦される。


 実際、去年も推薦されて実行委員になっていたし。


「成瀬、どうだ?」


「んー、別にいいよ」


 あ、やるんだ。


 こうして男子の実行委員はライトくんに決まった。


「じゃあ女子だが、誰かやりたい人いないか?」


 ライトくんがするなら私もしたい。でも、私にはそんな目立つことが似合わないし、やりたくない。


 でも、ライトくんと一緒に実行委員やってみたい。でも…。


 2つの思いが私の頭の中を駆け巡っていたその時、


「はーい、私やります!」


 クラスの中心的人物である西条さんが手を挙げた。


 あっ…。


 西条さんは前にライトくんに上目遣いで話しかけていた女の子。


 もうオーラからライトくんが好きだってわかる。


「お、西条。…他にやりたい人いないか?」


 ここで私が手を挙げればまだ間に合う。でも、私にそんな勇気はない。


 ましてや私が手を挙げても、選ばれるのは西条さんの方だろう。


「いないな?じゃあ実行委員は成瀬と西条で」


 体育委員のその声を合図に、教室を包み込むような拍手が起こった。でも、私は手を叩くことができなかった。


 私が優柔不断なせいで、せっかくのチャンスが泡と消えた。