「おい、腹が痛いのか?どこが痛いんだ?」

医者が行うようにイヅナのお腹にゴブリンは触れているものの、医学の知識を持った妖はゴブリンではない。彼に症状を話したところで、対処などできるはずがないのだ。

(これで、本当にイヅナのお腹が痛かったら、イヅナは役に立たないとして捨てられていたのか?)

お腹を触っていたゴブリンは、ふとイヅナの足に目を向ける。そこにはイヅナの華奢な足首を繋いでいた鎖はなく、鎖は檻の隅に転がっていた。

「おい、こいつの鎖は何で外れているんだ?俺たちがつけたはずなのに……」

そうゴブリンが言った刹那、風音は拳を振り上げてゴブリンの頭を殴り付ける。ゴブリンは目を白黒させながら床に倒れた。

「とりあえず、檻からは逃げられるわね」

先ほどまで痛がっていたイヅナが笑顔を浮かべ、立ち上がる。

「すごい演技力だったよ。女優さんみたいだった」

風音が素直に思ったことを口にすると、イヅナは「ありがとう」と言いながら優雅にお辞儀をする。それはまるで、異国のお嬢様のように風音の瞳には映った。