トラックがクラクションを鳴らしてすぐ真横を通り過ぎる。


すべての出来事が一瞬の間に起こり、けれどそれはスローモーションのように見えた。


ハトが飛び立った方向は、車道とは逆方向だった。


トラックがクラクションを鳴らしたのは一瞬ハトが視界に入ったから咄嗟のことだろう。


そして海斗は下級生の腕を握りしめた状態で動きを止めていた。


「はっ」


追いかけてきた健が息を吐く音で止まっていた時間が再び動き出したようだった。


海斗は下級生たちへ視線を向ける。


3人組はキョトンとした表情で海斗を見上げていた。


無事だ。


ケガひとつしていない。


それを確認した瞬間、海斗の体から力が抜け落ちていった。


その場にヘナヘナと座り込む。


未だに心臓は早鐘をうち、全身に汗をかいていた。


それでもそんなこと気にならなかった。


「ハトをイジメちゃいけないよ」


最後に一言、海斗はそう告げたのだった。