ただでさえ量が少ない弁当のおかずを分けてもらうのは気が引けたが、この機会を逃したくはない。

まさか鈴蘭が作ったものを食べれるなんて……今なら大嫌いな社交の場で愛想笑いを振りまけそうなほど高揚していた。

鈴蘭が、卵焼きというものを俺の前に差し出してくれた。

嬉しい。嬉しいが……これは間接的に……。

曇りのない純粋な笑顔を浮かべている鈴蘭に、罪悪感を覚える。



「どうぞ」



鈴蘭はまさか目の前の男が、自分に恋情を抱いているとは微塵も思っていないらしい。

人生で味わったことがないほど緊張していた。

このまま、食べてもいいものか……。

ためらっていると、不安そうに俺を見る鈴蘭と目が合う。

覚悟を決めて、恐る恐る口に入れた。



「……うまい」