「心臓の音、すっげ……」

「知らないよ……」

「はぁ……好き」


朝からドキドキさせないで。

そう思って必死に顔をそむけてるのに、ますます強く抱きしめてくるから、私も応えるように腕を回す。


「寝起きに彼女がごはん作っておはようって言ってくれるの、ほんとにいいな……仕事あるときは朝も夜も基本別々だし」

「うん……」

「あー……早く結婚したい……。
これが毎日とか、最高じゃん」


私もだよ。

本当なら私だって、早く起きて朝ごはん作ってあげたい。

深夜まで起きて、遥のこと待っていてあげたい。

でも遥が大丈夫って、無理しなくていいよって言ってくれるから、それに甘えてる。

もし万が一私が体調崩して、ご飯つくってあげられなくなることのほうがいやだから。


「胡桃ー」

「うん?」

「今日、ふたりで休む?」


「それは、だめ」

「えー、俺のこと、仕事とか学校のことぜんぶ忘れて一日中独り占めしたくない?」


それは、したい、けど……。


「だろ?」


素直でかわいいね、そういうとこ、ほんと好き。

うなじにちゅっとキスが落ちてきて、腰が引けそうになるけれど、お腹の前にまわった腕にますます力がこもるばかり。


でも……。


離れてた分、ふたりになったときのうれしさは倍だし、遥にふれてもらえたときの喜びとか、本当に幸せ感じるから……。


「今日は学校いこう?
一日中遥といっしょに学校にいれるの、中学以来だから、いっしょにお昼も食べたいし……」


それにそのときも、イチャイチャしたいし……。


真後ろにいるから心の声は聞こえているはず。

はずかしくて、耳が熱い。


「あーっ、もう……っ」

「遥?……っ、ん」

「今はこれだけ。
仕事行くの夜からだし、ダッシュで帰ってきて、時間まで胡桃のこと、満タンにしたい」


「うん……」


「それに、今日の夜は俺からキス、できないと思うから。その分、な?」


「もう、ばか……」


耳まで真っ赤。かわいー。

なんてまたふれてこようとするから、必死に交わして冷蔵庫に逃げる。



うそだよ。

本当は、学校休んででも、ふたりでいたい。

遥の言う通り、ベッドにいたい。


寂しかった。

いっしょにいられたはずの昨日も、結局だめになっちゃって、今日の夜も……。

でも、心の声ではぜったい「寂しい」って言わないように気をつけてる。


遥がそばにいるときには、絶対聞こえないように。


もし私がそう思ってるってわかったら。


遥は優しいから、ぜったい無理にでも合間ぬってふたりの時間を作ってくれようとすると思う。


ただでさえ忙しい遥の負担にはなりたくない。


私のせいで体調崩してほしくない。

ペース、乱してほしくない。

お仕事に、集中してほしいから。


「胡桃?どうした?」

「ううん、なんでもないよ……」


この黒い感情には、見て見ぬふりをするしかないんだ。