もう、キスだけじゃ足んない。

***


「あっ、ふたりとも!
今日はうちに泊まってくのよね?」


「うん。遥とふたりで泊まるよ」

「本当にいいんですか、俺まで」


「もちろんよ!
遥くんなら大歓迎!むしろ毎週泊まりにきてほしいくらいだから!」


「ありがとうございます……」


おばあちゃん、強い……。

あのクールな遥を、もう何回も照れさせてる……。


「あっ、でも夜ごはんまでまだ時間あるから、よかったら散歩にでも行ってきたらどうかしら」


ぶどう園から帰ると、時間はまだ15時。

夜ごはんにはだいぶ早い。


「せっかくだし、行くか」

「うんっ」


私たちの住む街は、王煌学園みたいに芸能科のある高校があったり、テレビ局関係のビルがたくさん建っているから、たまにこういう自然がたまらなく恋しくなる。


水の流れる音。

田んぼに、たくさんの緑。


ふだん目にすることがほとんどないから、おばあちゃん家にくると、すっごく落ちつくっていうか、心安らぐっていうか……。


「遥」

「ん?」


「いっしょに来てくれてありがとう」


「こっちこそ。
たまにはこういうとこもいいよな。胡桃と紅さんのおかげで、仕事のこととかぜんぶ忘れて楽しめてる。ありがとう」


遥、ほんとにうれしそうだなぁ……。

山の方だし、そんなに人もいるわけじゃないから遥はマスクをしてない。

そのせいからかもしれないけど、今日はずっと目尻が下がってて、外だけど、めちゃくちゃ表情豊かな気がする。

遊びにきて正解だった。


「おばあちゃん家に泊まるのなんていつぶりかな……小学生以来かも」


「なら、俺もだな。紅さんと会うのも久しぶりだし」


こっちに来るときはだいたい遥と来てから、そうだね。


「まあ、でも。その頃とはわけがちがうよな」

「え?」


「あのころはまだまだ子供だったけど、今はちがう」

「っ……」


ぎゅっと絡められた指。

ぶるっと体が震えるくらい甘ったるい声。


「恋人同士だし。いっしょに寝るだけじゃ、ないよな?」

「うっ、えっと……」


「夜、いっぱいイチャイチャしような?」

「うん……」


そう言って、クスッと笑った遥が顔を近づけてきたとき。


「────胡桃?」