もう、キスだけじゃ足んない。


【杏side】


「なんかやけに楽しそうな声聞こえるんだけど」

「俺も思った」


冷蔵庫に行ってからというもの、なかなか戻ってこないふたり。

珍しい……胡桃があんな大きい声で笑うなんて。

桃華のはしゃぐ声と、時折胡桃の声も聞こえてくる。


「なにかあった?」

「分かんない。けど、胡桃があんな大声で笑うの珍しいし……杏、俺ちょっとふたりの様子見て……」


お互い顔を見合わせて、立ち上がろうとした瞬間。


「杏ー!お待たせ〜!!」

「遥ー!待たせてごめんね!」


「うおっ、桃華!?」

「く、胡桃……?」


「え……?」


満面の笑みを浮かべた桃華がガバッと抱きついてきて、一時停止した俺。

飲みものを取りに行ったというに、なぜか何も持っていないふたり。

しかも。


「んんっ、杏〜!」


え、これ夢かなんか?

座っている俺の膝の上に乗ってきたと思ったら、自分から首に抱きついてきて、腕にぎゅうっと力がこもる。


「杏とぎゅーするの、ほんとに好き……」

「っ……」


最高かよ。

とろりと甘えたような声に、ぎゅっと目をつぶる。

どうしよう……俺今日命日?

桃華に殺されるなら、本望なんだけど。


「桃華」


少し高い体温はいつだって俺に癒しを与えてくれる。

その華奢な背中に手を回して、頭をポンポンして。


「俺も桃華とこうするの、めちゃくちゃ好きだよ」


そう言おうとした瞬間。


「もっと!」

は?

「もっと、ぎゅうってしてくれないと、やっ!」

「え?」


バッと勢いよく離れたと思ったら、むっすーと頬を膨らませた天使な顔に見つめられた。