もう、キスだけじゃ足んない。



アーンなんて、そんな!

べつに病人ってわけじゃないんだし、桃華たちもいるし……。

「桃華たちなら、ほら」

「え」

「はい、桃華。あーん」

「あー……んんっ、おいしいっ」

「ふふっ、良かった。
熱くない?大丈夫?」

「うんっ、大丈夫!」


も、桃華……。

ずっとアーンしてもらってて、食べるたびに、ほっぺたに手を当てて、おいしい〜!って顔を綻ばせてる。

い、いつの間に……。


「ほら、胡桃も。アーン以上にはずかしいこと、いっぱいしてんだし……」

「っ、それ以上は言わないで……!」

「はいはい。ほら、口、」

「あー……」


病人じゃないけど、アーンしてもらってる……顔が熱いのはきっと、あったかいのを食べてるから、だけじゃない。


「どう?おいし?」

「ん、めちゃくちゃおいしい……っ。梅って、うどんとこんなに合うんだ……」

「だろ?他に薬味とか乗せてもいいし。
どう?夏バテ気味って言ってたけど、食べられそう?」

「うん、お腹空いてきたから」

「ん、良かった」


でも、無理しないで。食べられるだけで大丈夫だよ。

そう言って、目を細めて笑って、ふわふわ頭をなでてくれる優しさに、きゅうっと胸が震える。


「じゃあ次な」

「えっ、いいよ!もう自分で……」

「いいから。俺に甘えて?」

「うっ、でも……」

「はい、あーん」

「あー……」


ふーふーしてくれて、またうどんを持ってこられるから、大人しく口を開けるしかできなくて。


「おいしい……」

「ん、ゆっくりでいいからな。ちゃんと噛んでから飲み込めよ」

「私子供じゃないよ?」

「知ってる。俺の彼女であり、婚約者であり、俺の奥さんになる子」

「そういうことを言ってるんじゃないんだけど……」

「じゃあ、どういうこと?」

「もうっ……」


アーンしてくれて、飲み込むたびに、とろりと目尻を下げて、ふわふわ頭をなでてくれる遥。


至れり尽くせりな感じ……。

あったかくて、優しい味……ありがとう、遥。


「ん、喜んでくれたみたいで良かった。
それにぜんぶ、食べれたじゃん」

「ん……」


今度はそっと腕の中へ引き寄せられて、「えらいね」って、ポンポン背中をなでてくれる。

あったかい……安心する。

ストレス軽減どころじゃない。

もうふわふわ。

身も心もとけちゃいそうなほど、遥に甘やかされてる。


「あーーーッ!遥!何胡桃のこと抱きしめてんの!?」

「いいじゃん。付き合ってんだし。
ていうか、そっちもイチャイチャしてたじゃん。あまっあま」

「遥よりはまだ抑えてるほうだと思うけど?」

「どうだか。ハグとかしてなくたって、もう雰囲気が甘いんだよ、雰囲気が。な、胡桃」

「う、うん、そうだね……」


ていうか、いいかげん離して、遥……。

私、いろんな意味でキャパオーバーだよ……。