もう、キスだけじゃ足んない。



「はい、じゃあ、気を取り直していただきますしよう!」

「いただきます」

「いただきます……」


優しい白だしと、食欲をそそる梅の香り。

上に乗った三葉も彩りが良くて、ぐうっと久しぶりにお腹が鳴った。


「ふはっ、」

「き、聞こえた?」

「聞こえた。かわいいお腹の音」

「別に可愛くないよ……」


ううっ……なんかおいしいごはん前にしちゃったら、つい気が抜けちゃう。

こんなに早く食べたいって思ったのは、まだライブの準備が始まる前、遥とふたりでごはんを食べていたとき以来。

桃華は……。


「めちゃくちゃおいしそう……」

「ふふっ、良かった。
味つけ薄くしてあるから、カロリーとか気にせずに食べられるよ」

「ありがとう、杏……」


桃華も、すっごく穏やかな顔してる。

杏の雑炊、おいしそうだもんなぁ……。


「杏の雑炊、食べたい?」

「え?」

「俺のは、あんまり?」

「そ、そんなことないよ……ただ、おいしそうすぎて、早く食べるのがもったいないなぁって」

「ん、そっか」


一緒シュンとなった遥に、慌てて弁解する。

遥が作ってくれたうどん……今まで食べてきたどんなうどんよりも愛情がこもってて、優しい香りがする。


「じゃ、早速いただきま……」

「あ、胡桃。ちょっと待って」

「桃華も。そのレンゲ、貸して」

「え?」

「いい、けど……」


パキッと割り箸を割って、うどんを持ち上げようとした瞬間。

隣から伸びてきた手が、近くの小皿にうどんを少し入れて。


「ふー、ふーっ……はい。熱いから、気をつけてね」

「えっと、これは……?」


そっと、唇の目の前に差し出されたうどん。

ま、まさか……?


「ん、そのまさか。
口あけて?」

「えええっ!?いい、いいよ!
自分で食べられる!」