もう、キスだけじゃ足んない。

***


「お待たせ、ふたりとも」

「待たせてごめんな」


「ぜんぜんいいよ!
疲れてるのに、作ってくれてありが……」

「えっと……?」


4人テーブルに置かれた料理。

それはどれもおいしそうで、今にもヨダレが出てきそうなほど、なんだけど……。


「サラダはみんな一緒だよね。でもメイン?が、胡桃とあたしとで、違う?」


そう。

4人テーブルに置かれている面々に、桃華も私も目をパチパチする。

アボカドとトマトのサラダと。


「鮭雑炊と、うどん……?」


雑炊と、うどんがそれぞれ2つずつ。

しかもうどんは、あったかいので、上に梅干しも乗ってる。


「うん。桃華と俺は、雑炊で、胡桃と遥はあったかうどんね」

「でも、なんでふたりでメニューが違うの?」


遥と杏。

同じ料理を分担して作っているのかと思いきや、そうではなく。

まったく別のもの作ってたんだ……でもどうして。


「まず鮭にはトリプトファンっていう睡眠の質を高める効果があるんだ。夏だし暑いからって冷たいもの食べたくなるけど、そこは我慢。体冷やすのは女の子だから良くないし、あったかいの食べたら、よく眠れるよ」


「うどんも一緒。梅干しは食欲回復の効果がある。夏バテ防止にもよく効くし。あったかいの選んだ理由は杏と同じ」


「うん。最後にアボカドは、栄養満点だしストレス軽減とか、リラックス効果があるから。トマトもね」


「……」

「……」


「じゃ、食べよっか」

「胡桃、こっち座って」

「あ、う、うん……」


「桃華も。あったかいうちに食べよう?」

「う、うん……」


桃華も私も、ただただ圧倒するしかない。

私はただ、夏バテ気味だと言っただけ。

桃華も、寝不足だとは言ってない。


なのに……。


「なんでこのメニュー、選んでくれたの?」

「俺たちが食べたかったから」

「そうそう。なんかあったかいもの、食べたい気分でさ」


あくまでも、私たちのため、とは言わない。

私たちが頑なに言わないって分かっているのか、それとも言うのを待っているのか。

私たちが言うまでは、遥も杏も何も言わない。


でもそれだけじゃなくて、体調にもやっぱりいち早く気がついてくれて。


ちゃんとした時間がとれるのは今日だけ。

明日からはもう完全に泊まり込みで、残りの1ヶ月、準備を進めるんだって、さっき聞いた。


疲れているのに。休みたいはずなのに。


「ほらほら、立ったままじゃ疲れるよ?
一緒に食べよう?」

「おいで、胡桃。
あったかいうどん、冷めちゃうよ」


私たちのためだって言わないで、でも私たちために買い物からごはんまで作ってくれた優しすぎるふたりのあたたかさに。


「……ありが、とう」

「ありがとう……」


「ん、どういたしまして」

「どういたしまして」


あったかいごはんから立ち上る湯気みたいに、込み上げてくる涙も、言ってしまいたい本音も。

一緒に消えてなくなってしまえばいいのにって、思った。