もう、キスだけじゃ足んない。



「ねえ、桃華」

「うん?」

「私たちがいろいろ言われてること、ふたりは知ってるよね……?」

「そうだね……特にふたりから何か言われたわけじゃないけど、知らないことはないと思う。当事者だし」

「だよね……」


桃華は隈がひどいこと。私は食欲がないこと。

そしてその理由。


ふたりが気づかないはずはないけれど、今のところ遥は特に何も言ってこないし、桃華も杏からは何も言われてないみたい。


気、使ってくれてるのかな……。


私たちが何も言わないから、敢えて話題に出さないようにしてくれてる、とか。


「桃華、大丈夫?隈……」

「胡桃も。ますます細くなったんじゃない?」


料理をするふたりには聞こえないように、コソッと話す。

ふたりは今、大事なとき。

これからの活動に関わるくらい、大きなことをやり遂げようとしてる。


「重荷に、なりたくない……」


「あたしも。どうせすぐに収まるって分かってるし、こんなの芸能界じゃよくあることだから。言いたいやつには勝手に言わせとけばいい」


「うん……」


桃華も、私も、考えていることは同じなんだ。

今のふたりにとっての一番は、ライブを成功させること。

私たちを見て、ふたりがどう思っているのかは分からない。

でも、私たちが何も言わない限り、ふたりが無理にでも聞き出そうとすることはないって思ってる。

苦しい、つらいって言えば、ふたりは絶対お仕事よりも、私たちを優先してくれる。

そんな優しいふたりだからこそ。


今はライブのこと、自分たちのことを第一に考えてほしい。

何より自分たちのせいで、ふたりの活動に影響が出てしまうことが、桃華も私も一番つらい。

ライブが終わるころには、きっと少しは落ちついているはずだから。

つらくても、苦しくても。

遥との時間が待っていると思えば、乗り越えられるはず、だから……。


昨日の電話でも、前から遥は遠慮しなくていいって言ってたし、つい私も我慢できずに言ってしまった。


でも、もう言いたくはない。

だってこれ以上は、とまらなくなる。

一度、二度と言葉にしたものは、もう抑えられない。

体に異常が出るくらい、限界なことは自分が十分分かってる。だから……。


助けて。

行かないで。


桃華も私も、本音と一緒に飲み込むしかないんだ。