もう、キスだけじゃ足んない。



ギリッと歯を鳴らして、舌打ちしたあーちゃんの腕を引っ張って、その場を離れる。


「何も言い返さなくてよかったの?」

「だって、キリがないから」


MVの撮影が終わってしばらくして。

公開された早生先輩のMVはたちまち大人気になった。

もちろん、遥の人気も。

けれど。


「あ、あれあの子でしょ。遥くんの相手役の子」

「ただの一般人なんでしょ?
幼なじみだかなんだか知らないけど、日向くんにも、遥くんにも、美人だからって色目使ったんでしょ」

学校でこんなことを言う人はいない。

前に遥が学校で私を彼女宣言したおかげか、むしろすごいねって、MV本当によかったよって、言ってくれる人ばかりで。


でも一歩外に出てみれば、案の定。


「あの、日向さんのMVに出てた人ですよね!?
握手してください!」

「一目見たときからすっごい可愛いなって思ってました!モデルとかされてるんですか?」


嬉しい言葉やありがたい言葉をもらえる反面。


調子にのるな。出しゃばるな。

対して可愛くもないくせに。

遥くんに釣り合わない。


本人を目の前にして直接言われることはほとんどない中でも、たまにいるんだ。

容赦ない言葉をぶつけてくる人や、ファンだって人から、遥に近づくなって言ってくる人、直接言われなくても、言われてるってわかる人。


こんな子が彼女だなんて遥くんがかわいそう。


私のことを悪く言うだけなら、まだいい。


だって私はただの一般人。


でも私のせいで遥が悪く言われることが一番つらくて苦しくて。